番外編 百合●●●のすゝめ(後編)

 ……視線が刺さる。


「あの、外に出てはくれないんですか?」

「リーチちゃんが、意識のないパストちゃんに変なことしないか見張らないと」

「しませんよ!」

「ふふ。できないの間違いじゃないの?」


 ヘタレだからじゃないよ! 紳士だからだよ!

 外野は無視だ。オレは勢いに任せてメイド服を脱ぎ散らかし、パストさんの体を見ないよう、目を閉じて布団に滑り込んだ。


 く……くふぅぅ~~~~~~。


 見えなくても、温度で、匂いで、パストさんと一つの布団に入っている生々しい気配が伝わってくる。ここから抱き合うとか、本当にできるのか。


 そろりと目を開けると、息が触れるほど近くにパストさんの眠った顔があった。

 長いまつ毛。艶のある唇。すっと通った鼻筋。尖った耳。

 日本人には絶対いない。ファンタジー世界の麗人が目の前にいる。

 しかも下着姿で。オレもだけど。

 それになんか、甘い匂いもする。

 意識すればするほど、カァ~~~~~~、と全身が熱くなっていく。

 対して、パストさんは体温低下の症状によって、カタカタと震えている。


「ほれ。焦らさんと、はよう抱いてやらんか」

「言い方!」


 パストさん、ごめんなさい。

 抱き寄せるつもりで、仰向けになっているパストさんの、遠い方の肩にそーっと手を伸ばす。指先が軽く触れると、パストさんがピクンと反応を示した。

 思わず手を離してしまうが、代わりにパストさんの目蓋が薄く開いた。


「……リ……チ……様?」

「こ、これは、夜這いとかではなくですね! 魔力の補充をしようと!」


 意識が朦朧としているのか、とろんとしたパストさんの目は焦点が合っておらずオレの声も届いていないようにも見える。


「……しい……」

「え? ちょ、パストさん!?」


 はふ、と熱っぽい息を吐いたパストさんが、オレの胸の谷間に顔を埋めてきた。


「リーチ様の……ま……く……欲しい……」

「まく? あ、魔力か」

「聞き捨てならん! リーチの膜は我のモノだぞ!」


 締め出した変態が戻ってきた。


「いかにパストといえども、リーチの純潔は渡さん! どうしてもと言うのなら、その営みに我も参加させぬっふおおおおおお!?」

「懲りん奴じゃな。しばらくは男子禁制じゃと言うとろうが」


 メロリナさんの働きで変態は退場したが、依然として危機的状況は続いている。

 なんのつもりなのか、パストさんが唇でオレの胸肉をついばんできた。


「ちゅ、ぺろ……ぺろ……んちゅ」

「パ、パストさん、何してるんですか!? ちょ、やめ、はぅん!」

「りぃち、言い忘れておったが、特に意識せん場合、淫魔には魔力が集まりやすい場所が二つある。一つは心臓でありんす」


 な、なるほど。だから無意識に、心臓に近い胸に吸いついてくるんですね。


「心臓と、あと一つはどこなんですか?」

「そりゃ、お前さん、淫魔なんじゃから、言わんでもわかるしょや」


 まさか……。

 怖い想像に思い至ったのと同時だった。

 パストさんの膝が、オレの股を割るようにして押し入ってきた。


「そこ!? もしかしなくても、そこなんですか!?」


 この時点でパストさんの右手はオレの背中に回されており、オレたちは抱き合うというより、絡み合っていると言った方が正しい体勢になっている

 さらに追撃。パストさんの左手が、オレの腹をなぞって下りて来た。

 ひんやりとした指先がヘソを通過し、パンツの境目に触れる。

 しかも、そこで止まらず、なおも奥へと――


「ダメですダメですダメですそれだけは絶ッ対ダメです!!」


 無我夢中でパストさんの手首を掴み、侵入を阻む。それでも指は魔力を探り当てようとするかのように、下腹部をこしょこしょとまさぐってくる。


「ふにゃっ! そんな、くすぐっちゃ、んひゃ!」

「喘いでいるわ! リーチちゃんが、パストちゃんの指使いに喘いでいるわ!」

「言っときますけど、ちゃんと防いでいますからね!?」


 でも、これではスミレナさんを喜ばせるばかりで、埒が明かない。

 こんな状態では、魔力の拡散放出を試すなんてできない。

 オレは緊急措置として、【一触即発クイック・ファイア】を放つつもりで右手に魔力を集中させた。

 それにより、パストさんが胸と股間から離れてくれた――まではよかったけど、今度は新しい蜜に誘われるようにして、オレの右手を掴まえた。

 そして、指をぱくり。


「ぺちゃ、ぺろ。リーチ様の、中……温かい……」

「中指ですね!」

「ぺろ、ぺちょ、ちゅく。く……りも……美味しい……」

「薬指ですね!」

「あむ、ぴちゃぴちゃ、ちゅぷ。おぁ、んちゅ、こ……とろとろ、れふ、んちゅ」

「親指と小指ですね!」


 貪るようにして、パストさんがオレの指に舌を這わせる。

 扇情的すぎる。どう考えても、未成年が経験していいプレイじゃないよ。

 そしてうっかり、パストさんのエリミネーター級を俯瞰ふかんで拝んでしまったものだから、オレはいよいよ頭がくらくらしてきた。


「リーチちゃん、血が!」


 げ。やっぱり鼻血が出てきた。


「なんだと!? ついに膜が破れてしまったぬぎゃおおおおおおおおおおお!!」


 変態が三度みたび侵入――は叶わず、メロリナさんが、前の二回以上の出力で剥けチン地獄に叩き落した。マジで懲りろよ……。


「りぃち、手からわずかに魔力を放出できておるが、それではダメじゃ。全身からバランスよぅ出さんと、そやつは凍えてしまいよる」

「そんなこと言われましても!」

「ほれ、集中を欠くと、魔力が心臓と股に戻って行きよるぞ」

「……魔力……どこ…………こっち?」


 ちゅく。


「ひょあああああああああああああああ!!」

「リーチちゃん、今の水っぽい音は!? もしかして、もしかした!?」

「汗で下着が湿ってきただけです!」

「もっと……もっと欲しいのぉ……」

「カカ。魔力の放出を会得するのが先か。貞操を奪われるのが先か。思いがけず、これは良い修行になりんすな」


 くちゅ。


「にゃひいいいいいいいいいいいいいい!!」

「リーチちゃん、今のは!? 今度こそ!?」

「断固汗です!」

「男根汁!? 幻肢げんし勃起から、ついにその域まで!?」

「お願いですから集中させてください!」


 看病という名のスパルタ修行は夜通し行われ、外が白んできた頃には、どうにかパストさんの容態も回復に向かってくれた。

 オレは叫びすぎて声も枯れ、そのまま看病される側となったが、全身から魔力を放出する感覚を死に物狂いで覚えたことにより、特能【一触即発クイック・ファイア】拡散放出ver.をマスターしたのだった。


 あと、パストさんにすんごい謝られた。

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