第98話 復活のエレクチオン
「
まさか、そんなはずが。
証拠と言えるほどの根拠は無く、尋ねた直後に頭は否定しようとした。
だけど、俺の理想を形にしたかのような彼女は、しきりにこくこくと頷いた。
瞳を潤ませ、漏れ出しそうな嗚咽を懸命に堪えながら。
…………。
…………。
かける言葉が見つからねェ。
自分の転生は最悪だと思っていたけど、いきなり異世界に女として放り出されただけじゃなく、魔物――サキュバスだってだけで、命まで狙われる危険に晒された利一に比べりゃ全然マシだ。こいつが味わった苦労は想像もつかない。
…………。
…………。
失恋、てことになンのかな。
いや、惹かれてはいたけど、それが恋だったのかは、ちょっとわかんねェ。
多分違う。今も昔も利一は親友だ。違うってことにしておこう。その方がイイ。
さよなら、俺の理想の君。
でも、そんなショックは些細なことだ。
利一とこうして再会できた。
それが今は、何にも増して胸に迫る。
「やっと見つけた。ずいぶん探したンだぜ」
「……めん。オレも……探……けど……ぱい、いっぱいで……」
声がかすれて、何言ってンのか聞き取れねェ。
積もる話は山程ある。言いたいこと、訊きたいことがたくさんある。
なんでか利一は、俺が
そのあたりも含めて、いろいろ。
どういう経緯でサキュバスに転生させられたのか。
俺もどうしてフルチンで登場することになったのか。
これまでのこと。これからのこと。話題は尽きない。転生支援課のドチクショウなアラサービッチの愚痴なんて、最高に盛り上がりそうだ。
「貴様、どうしてここに!?」
武器を合わせていたシコルゼが大きく飛び
周囲はギャラリーとなっており、まるで一騎打ちを観戦していたみたいに一定の間隔をあけていて、俺たちに近づいてはこない。
俺は利一が抱えている人物に視線を落とした。
蜥蜴人? 王都では見ない種族だ。胸を真一文字に斬られており、意識は無い。
「その人、友達か?」
訊いた途端、俺との再会では我慢できていた涙が、堰を切ったようにぼろぼろと利一の赤い瞳から零れ、ひっく、ひっく、としゃくり出した。
「あ、ちょ、ええっ!?」
「ギリコさんが……死ん……まう……ひく」
以前なら、「みっともねェから男が泣くなよ」くらい言えたが、今はどうにも強く出られない。逆に俺の方がみっともなく慌てふためいてしまう。
どうしよう。背中を擦ってやるのもなんかセクハラっぽい気がするし、そもそも全裸で公道を走って来た時点でアウトと言えなくもないというか、なんというか、やっぱ胸でけえなオイ。ごくり。
「――よかった、無事だったか!」
これは利一、これは利一と自分に言い聞かせながらも、悩殺的なアングルに目を奪われていると、馬を降りたカリーシャ隊長が利一の傍に駆け寄った。
「……腐女子の……お姉さん? え……騎士?」
潜入調査の時は素性を隠していたため、騎士の装いをしたカリーシャ隊長を見た利一が、涙を流したまま、きょとんとした顔になった。その得も言われぬ愛らしいリアクションに、俺は「うぐっ」と唸り、相手が利一であることを忘れて抱き締めてしまいそうになる。落ち着け。これは利一だ。見た目はどうあれ男同士だぞ。
ところで男同士の
「アラガキタクト、しっかりしろ! 何を呆けている!?」
「おっと、すまねェ。つーか、なんで利一にまで、カリーシャ隊長の腐った趣味がバレてンの? 任務中に何してたンだ?」
「短い時間だったが、同好の士と夢のような語らいをした」
「同好の士?」
「彼女だ」
利一が「え?」って顔してますけど?
「リザードマンの方は傷が深いな。助かるかどうかは五分五分といったところか。ともかく、一刻も早く応急処置が必要だ。店の中に運ぼう」
「助かる!? ギリコさん、助かりますか!?」
「わからない。だが、死なせたくない人なのだろう? 手を貸してくれ」
カリーシャ隊長が利一に言い、リザードマンという種族らしい人物の腕を自分の肩に回した。俺も手伝いたいところだが、そうは問屋が卸してくれない。
「何をしている、カリーシャ・ブルネット小隊長」
シコルゼだ。
「君は謹慎中だったはずだが?」
「問答はしない。全て覚悟の上で私はここにいる」
「騎士団を裏切るということか?」
「裏切ったつもりはない。ただ、今回の件は納得できなかった。それだけだ」
「そうだな。それだけで十分だ。君を騎士団から除隊させる理由は」
「私が騎士団からいなくなれば、特能持ちが一人になってしまうな」
「非常に残念だよ」
「顔は、そうは言っていないように見えるぞ」
「なんのことかわからないな。それより、サキュバスは置いていってもらおうか」
地面を突いていた大剣の切っ先が、利一に向けられる。
それを遮るようにして俺は立ち塞がった。
「させるかよ。テメエの相手は俺だ」
「懲りない奴だ。そんなに僕が憎いか」
「勘違いすンなよ。あの一戦、ボロ負けしたことにムカッ腹は立ってるけど、恨みみてェなもんは無ェ。そっちが提示した条件をのんだ上で決闘したンだ。なのに、勝敗にケチつけるのは筋違いだ」
「わかっているなら、何故そこに立つ?」
「物忘れが激しいのか? 言ってあったろうが。負けても諦めてはやらねェって。騎士団が利一を狙い続ける限り、俺は何度だって立ち塞がってやる」
「ふん、全裸で啖呵を切っても格好がつかないぞ」
わかってンよ! わかってるけど、それを言うのはナシだろォォ!
「このリザードマンの彼……彼だよな? 一対一で戦ったのか?」
「そうだ。相手にもならなかったがな」
「それにしちゃ、やけに真新しい傷が顔についてンぞ?」
図星だったのか、シコルゼが不機嫌を露わにした。
「……憎たらしい奴だ」
「ここで
シコルゼが周りに視線を一巡させた。断れば、勝負に臆したという評判が立つとでも考えているンだろう。
「いいだろう。そこまで言うなら、望みどおり返り討ちにしてやる」
「そうこなくちゃな。こないだの俺と同じだと思うなよ」
牢の中で、ただ無為に時間を過ごしていたわけじゃない。
一秒先が見えるというシコルゼの対策は練ってきた。
「利一」「拓斗」
呼び掛けが重なった。
あ、という形になった口を利一が手で押さえたので、先に言わせてもらう。
「また後で、ゆっくりダベろうぜ」
ニカッと歯を見せて言ってやると、利一は涙のあとがついた目をぐしぐしと腕でこすった。そうして俺と同じように、気丈に笑い返した。
「オレも、そう言おうとした」
利一は俺に「一人で大丈夫か?」なんて心配はしない。
いつだってそうだ。俺ならなんでもできるって信じていやがる。
高く評価しすぎだ。スーパーマンだとでも思われてンのかね。
だけど、それを重いとは感じず、悪い気もしなかった。
期待されるのが嬉しくて、憧れのままでいたくて、つい頑張っちまう。
なんだかんだ言って、俺はカッコつけなンだろうな。
利一の前でカッコつけるのが好きなンだ。
「カリーシャ隊長」
シコルゼを見据える俺は、リザードマンの彼を利一と挟むようにして肩を貸しているカリーシャ隊長を呼んだ。それだけで、彼女は意図を汲んでくれた。
「
ふるる、と打ち震えた。
腐っていようが関係無ェ。
カリーシャ隊長、アンタは最高にイイ女だぜ。
俺はハイタッチの代わりに、カリーシャ隊長のお尻にタッチした。
ん。とカリーシャ隊長が小さく声を漏らした。
もみゅもみゅと揉みしだく。
スカート越しでも指に、掌に伝わってくる、素晴らしい肉感だった。
目覚めろ、俺のもう一つの槍よ。今こそ友のために勃ち上がれ。
ドクン。
ドクン。
ドクン。
股間に感じる熱く力強い脈動。それに伴い全身に満ちていくパワー。
「シコルゼ、アンタはまだ見たことがなかったな。俺の
勃起の角度は硬度に比例するという。
ぐぐ、ぐぐ、と水平まで持ち上がった。この傾斜角度を90度とする。
まだまだ序の口。ここからよりいっそう角度をつけていく。
「100度……110度……120度……」
この時点で十代の平均角度を上回っている。
だが、俺の勃起はさらにその上を行く。
「な、なんだと!? まだ上がっていくというのか!?」
「130度……140度……」
脱衣強化はできねェが、その分こっちでビビってもらうぜ。
ラスト一揉みは指が全て尻肉に埋まるほど強く激しく、そしてエロティカルに。
カリーシャ隊長が「あうんっ」と痛みと羞恥に耐えるような甘い声を出した。
「――160度!!」
勃起強化完了。
実に五日ぶりのエレクチオンだ。
天を
心なしか、普段よりもパワフルな気がする。
なるほどな。
雄々しくたぎるそれは、まさに死の淵より蘇ったフェニックスのようであった。
頭上でくるくる、股下でぶるぶると
「さあ、ヤろうか」
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