第8話
男は銀狼のそばまでやってくると、
「ワン公。無事みたいだな!」
『無事、だと!? 危ないではないか!』
「ちゃんと避けろって指示出したろ」
銀狼のもふもふな尻尾が、飛び散った火花で危うく焦げつくところだった。
「隊長、見た見た!? 顔面にクリーンヒット! ねぇねぇ、すごい!?」
「あーはいはい。すごいすごい」
なんだこの緊張感のないやつらは……。銀狼が呆れながらふたりのやり取りを見守る。
『ん? おまえたち、暁の人間か!?』
隊長と呼んだ男の周りを、兎のように跳び跳ねる女のジャケットの背中に、昇る日の出と月鬼のマーク――暁の紋様を確認した銀狼は思わず声をあげる。
「ああ。俺は第五十四隊、隊長の夜霧大雅だ」
男がジャケットの胸ポケットから、手帳を取り出して銀狼に見せる。
「同じく第五十四隊、隊員の
京奈は
唖雅沙のような厳格な人間ばかりかと思いきや、こんな規格外な人間もいるのか。
「お、お出ましだな」
大雅の声に、銀狼が顔をあげる。
大きな爆発音をさせたせいか、数えきれないほどの月鬼たちが、銀狼たちの向かって押し寄せて来るのが見えた。
「それじゃあ、ワン公は下がってな」
『誰がワン公だ! 俺は誇り高き狼だ!』
「ワンちゃん、危ないよ! こっちにおいで」
『おいっ!』
銀狼をひょいっと俵担ぎにした京奈は、反対側の肩に
「よーし、いくよぉっ!! てーい!!」
京奈の霊力によって作られたロケット弾が、月鬼たちに向かって炸裂する。
ドカンドカン、とすさまじい爆発音と立ち昇る煙に、聴覚や嗅覚にすぐれた銀狼の五感が麻痺してくる。
『おい、離せ! 俺は中に入りたいんだ!』
「ダメダメ。中は危険でいーっぱいなの!」
じたばたしながら京奈の肩から逃れようとするが、がっちりつかまれているせいで抜け出せない。
『緋鞠が! 俺の主が、中にいるんだ!』
銀狼の言葉に、大雅がぴくりと肩を揺らした。
白銀の瞳が探るように銀狼を捉える。
「――おまえ、あの子の飼い犬か?」
『誰が飼い犬だ! というか、緋鞠を知っているのか!?』
「なるほどなるほど」
銀狼を無視したまま大雅が納得したようにうなずいている。
「――
大雅の封月が輝き、右手に月明かりが集約され、刀が現れる。
と同時に、大雅が月鬼たちの群れに突っ込んでいった。
『お、おい、大丈夫なのか?』
「心配ないよん♪」
京奈の言葉にうなずくも、銀狼ははらはらしながら、月鬼の中に埋もれる大雅の背中を見守った。
「――
キ……ン!
その場を埋め尽くすほどの月鬼が、いっせいに残骸となって消えた。
『な、なんだと……?』
「隊長の朧月は刀身をさまざまな状態に変化できるんだよ~。すごいでしょ?」
京奈がえっへん、と胸を張った。
『あ、ああ……』
何が起きたのか、まったくわからなかった。
大雅が月鬼たちの間で、舞を舞うように動いているのは見えた。
だが、手にしている刀には刀身がなかったように見えた。刀身もないのに、どうやって月鬼たちを倒したのだろう?
しかも、朧月の能力も関係しているだろうが、周囲の建築物を傷つけずに月鬼のみを斬り払っている。
さすがは隊長格――。
戻ってきた大雅が京奈に頭にチョップを食らわせた。
「なんでおまえが偉そうなんだよ」
「痛いっ! ひどいよ、隊長! そこはフツーに頭なでなで、でしょー!?」
「うるさいやつは撫でてやらない」
「ひどーい! うわーん!」
こういう茶番劇がなければ、素直に尊敬出するのだが……。呆れて見つめる銀狼の前に大雅が屈んだ。
「ワン公」
『俺には、銀狼という立派な名前がある』
「そうか、銀狼」
『なんだ?』
「今、結界を壊すのに、人員を割いててな。中に突入するのに、人員が不足しているんだ。おまえが来てくれると助かるんだが?」
『よし、任せろ!』
勢いよく返事をする銀狼を、京奈が肩から下ろした。
即席チームの侵入作戦決行。
銀狼は緋鞠の無事を祈りながら、ふたりの背を追った。
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