雷よりも怖いもの

ピカッ! ゴロゴロゴロッ!


「ひぃっ!」


 教会の窓から外の様子を伺っていたニックは、空を切り裂いた光と世界の終わりのような音に悲鳴を上げた。こんな土砂降りの中だったら、逃げ出しても王様は追いかけて来られないんじゃないだろうか。そう思って外に出るチャンスを探していたのだが、雷が落ちたのを見てそんな企みは吹き飛んでしまった。


「また逃げようとかって考えてたの? 君は本当にお馬鹿さんだなあ。いちいち君を連れ戻すのは簡単だけど面倒なんだ。そろそろ諦めてくれない?」


 緋色の王様は真っ赤な髪をつまらなそうに弄っている。ニックの気持ちなど考えもしないその物言いに、まだ幼い彼は深く傷ついた。


「いやだ! ぜったいに、ちちうえとははうえのところにかえるんだ! おまえの言うことなんかきくもんか!」


 目に涙を浮かべて七歳児は誘拐犯に反発する。その姿を見て王様はうんざりとため息をついた。


「子供って最悪。姉さんも僕のこと、こんな風に思ってたのかな。だから僕のこと、捨てちゃったのかな」


 そんなことに思い至って、王様は意地悪くニックに告げる。


「僕のこと捨てたんだから、きっと姉さんはいずれ君のことだって捨ててたよ。良かったじゃない、捨てられる前に僕に連れてこられて」

「ははうえはそんな人じゃないもん!」

「僕を捨てたのは事実だよ!」

「ははうえはとってもやさしい人だよ!」

「そんなの嘘に決まってる!」


 二人の言い合いが最高潮に達したその時。


 ピカッ! ドーンッ!


「ひいいいいっ!」


 教会のすぐ側で雷が落ちたらしく、強い閃光と爆発音に似た雷鳴が一瞬教会を埋め尽くした。ニックは恐怖のあまり目の前にいた王様にしがみついて震える。その体から伝わる体温は王様にとって久しぶりに感じたぬくもりで、気づけば少年を強く抱きしめていた。


「なんだよ、はなしてよ!」


 戸惑い抗議するニックに王様は微笑む。


「雷、怖いんでしょ」

「こわくなんかないもん! おれ、もう7さいなんだから!」

「そっか、すごいね。僕は怖いなあ。慰めてくれるかい」

「え……」


 ニックが見上げれば、何故か王様は泣いていた。まるで子供みたいに泣くものだから、ニックは拒絶出来なくて仕方がなく彼の頭を撫でる。


「そんなにかみなりがこわいの?」

「怖いのは雷じゃないんだ。でも君が側にいてくれたら平気だよ」


 そんな風に言われてしまったら、逃げづらくなるじゃないか。ニックはそう思いながら、雷が止むまで王様の頭を撫で続けていた。

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