地 最終話 ―結末―

―午後3時過ぎ―


―薄木・粟辺地区"阿古高濃度地区"七島展望台―



地揺れから、既に三時間近く経っていた。


展望台への道のりは、山慣れしていない二人を連れては楽では無かった。


そのせいで、目的地に辿り着くのが遅くなってしまったのだ。


展望台に着くと、其処には何も無かった。


ただ一つ、斬り裂かれた女性の遺体を除いては。


竜尾鬼「これは―…」


屈み込み、その遺体を観察する。


腹部から頭部にかけて、上部に斬り裂かれており、真っ二つになった部分からは大量の血液と内臓が飛び出し、数メートルの高さから落ちたのか、飛び散っている。


その様を直視出来ず、スズは顔を背けた。


トシ「この顔…何を視たんだ…?」


眼を細ませ口元を抑えながら、その表情に言及する。


竜尾鬼「…解りません」


その顔は、恐怖で歪んでいた。


眼を見開いたまま。


黒い男あの人にこんな事が出来るとは思えない―


それが、竜尾鬼、他二人の意見だった。


トシ「何が起きたんだ…」


その状況に驚愕している最中、突如携帯が鳴り始める。


トシ「…協会からだ …ハイ、もしもし?」


??『状況はどうなっているのですか? "青い符術師"こちらからでは詳細にモニター出来ません 定期的に報告しろと言ったハズですよね? 怠慢ですよ…!』


受話器越しのその声は高圧的で、苛ついている様だった。


トシ「済みません…ドミニク局長…異界化が進んでいて、連絡が取れませんでした」


ドミニク『言い訳は聞きたくありません …ですが、この電話が通じたという事は、解決したのですか?』


トシ「ハイ…なんとか…ですが…」


ドミニク『それでしたら、"黒い男"を連れてきなさい 独断専行をして、"プルス・アウルトラ我々協会"に指示を仰がず行動したのですから 処罰の対象です お陰で坂本家やDiavoloに後れを取ってしまったッ…! 我がプルス・アウルトラがこの事件を解決するハズだったのにッ…!』


その言葉を聞いて呆れる。


そんな事のためとはいえ、友人を捕らえるために声を上げて三宅島に来させてくれと言ったのを後悔する。


出世や見栄で人助けなど出来るか…!


それがトシの感想だった。


だが、冷静に、それに便乗して今此処に居るのも事実なので、多少黒い男に対して罪悪感も湧く。


トシ「ですが局長…対象は何処にも居ません 拿捕するにも何処に行ったのか…」


ドミニク『何ですって?! では、そこまで出張って何も得られずと?!』


トシ「いえ…この状況は改善されています 異界化は止まっています 協会の人員に調べさせて下さい」


ドミニク『!…そうですか では、島の調査は協会で一任しましょう 他の機関へは介入出来ない様手を回します 引き続き今回の関係者として、黒い男を捜索へ 以上』


そう言って、一方的に通話は切れた。


竜尾鬼「…協会ですか?」


トシ「ああ…黒い男アイツを一報的に関係者として扱っている 寧ろ今回の件の責任者として、上手くいかなかった事を全て擦(なす)り付ける気だ」


竜尾鬼「そうですか…僕の方でも手は回してみます」


トシ「頼む…」


"ドミニク・ドミニクヴェンジェンスの復讐"…それが彼の名前だった。


勿論協会内での通り名だが、復讐(ヴェンジェンス)とは…


そもそも協会とは、様々な機関からの一過性にならないための退魔機関として様々な国や地域に極秘裏に設立され、国家とも繋がった独立した組織である。


この、"プルス・アウルトラ"は、2000年代に入ってから日本に設立された。


設立に至ったのは1999年の事件からだった。


その時は東欧の正派教会機関と宮内庁陰陽機関がお互いに助力して、なんとか表沙汰にもならず解決出来たと聞いている。


その時は、様々な魔物やら怨霊やら伝承レベルの存在も現れて、対処が大変だったと聞いている。


その事件を鑑みて、当時、一教会員だったドミニク・ヴェンジェンスが何者にも捕らわれずに様々な"魔"に対応出来る超法規的組織として、協会の設立を掲げた。


それからはあっという間だった。


僅か一年足らずで日本全国に対して力を持つ組織に育った。


だが、最近度を超して成果を出そうとしている様に感じる。


丸で視得ない、何かの目標が在るかの様に…


スズ「ねぇ…」


そんな事を考えていたが、スズに声を掛けられて、現実に戻される。


スズ「黒い男(彼)は…何処に行ったのかな…ここら辺にはもう邪気を感じないけど…彼の気配も無い…」


言われればそうだ。


禍々しい気配はもう存在しない。


それに、仲間(黒い男)の気配も―


スズ「ねぇ…コレ…」


スズの声、そちらに向かうと、黒い男の持ってきたであろう傷付いた道具や血の付いた服の切れ端が落ちていた。


其処に、"閻魔"だけが無かった。

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