地 其の十二 ―魔人―

その"ナニカ"は黒い男だった。


その姿は、右手を中心に薄暗い黄金色に輝く黒い鱗が疎(まば)らに生えており、頬にもうっすらと生えている。


それは傷付いて所々破けた衣服の隙間からも見えた。


そして、黄金色に輝く右手には先程転がり落ちたはずの"閻魔"が握られており、両の瞳の色が、真紅に染まっていた。


何が起きたか解らず、山羊頭は混乱した。


だが、そんな思考が及ぶ前に、事切れた。


先ず、右手の"閻魔"を横に一振りすると、その斜線上に在る"獣"の首が綺麗に"落ちた"。


そしてそのまま閻魔を左手に持ち替え、右手を中空で"獣"を握る様に構えると、右手の甲から黄金色の輝きが強まる。


そして握り潰す動作を始めると、目前で"獣"が圧迫され、大量の血を吹き出しながら潰れていく。


右手を思い切り握ると、圧迫された体躯に収まっていた"獣"の血や内臓が、握り潰された風船の様に破裂し、シャワーの様な血が降り注ぐ。


続け様に、右手に刀を戻し"力"を込め、その空間全体を薙ぎ払い、その場そのものを斬り裂いた。


山羊頭の言葉もそこで途切れた。


しかし、まだ終わりではない。


彼女も大罪だ。


滅さなければならない。


この状況に、流石に気付いたのか此方を見下ろしていた愛己は、驚愕の表情を向けている。


まさか自分が危機に陥る状況になるとは思っておらず、表情は困惑と恐怖で歪んでいる。


だが、関係は無い。


右手に力を込め、愛己に向けて跳躍する。


愛己「なんでこんな事になるの?! 嫌! まだ楽しみたい! 死にたくない!」


? 何か囀(さえず)っている様だが煩わしい。どうでもいい。


愛己「こっちに来ないで!化物!」


最後の言葉は


"閻魔"を両手で突き刺す形で、思い切り腹部に刺し込む。


一瞬、彼女の肢体がうっすらと頭を過(よぎ)る。


だが、そんな事は意に介さず、そのまま"閻魔"を上に斬り上げ、背を向けて振り下ろす。


女の腹部より上が真っ二つになり、割れる影が見えた。


床には振るった刀に着いていた血が飛び散る。


振り返る事は無かった。


今の女の表情は恐怖であったか…


どうでもいい。


僅か数秒でその全てを行い、足が床に降り立つと同時に、その場は細切れに崩れ落ちた。

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