第十五話

四十二



5月31日(木)夜11時35分―


―町田市 南 廃工場―



開けた裏門から入ると、其処にはおびただしい数の錆びたガスボンベが、綺麗に端に並べてあった。


出荷用だったのか。


この工場の事は調べたが、どうやらトップのワンマン経営がたたり、大規模なストライキが起きたらしい。


そこを無理矢理アルバイトで補おうとしたが、勿論補えるわけもなく、売り上げが相当に落ちて、この工場は閉鎖になったらしい。


その為か、設備が未だ手付かずで残ったままだった。


…とすれば、このボンベも出荷用で中身が入ったままなのだろうか。


そう考えるとゾッとした。


そうこう考えている内に、工場に着いた。


中に残りの三人は居るのか。


それを確かめねばならない。


あと三人…他に攫われた三人はどうか判らない…


正直余り期待出来ない…


時間が経ち過ぎている…


最長一週間は長過ぎるのだ。


女性、それも今時のでは尚のこと難しい。


異界に捕らわれ水も食料も定かではないとすると、期待は出来ない。


施錠された奥の工場入り口の蝶番ちょうつがいを黒い男の銃で破壊し、白の男が勁で吹き飛ばす。


白の男「この中なんだな?」


黒い男「…恐らく 電力メーターがさっき動いてました」


白の男「廃工場じゃねーのか?! なんだそりゃ!」


至極当然なツッコミだ。


だが、何故か一部電気が通っているのだ。


黒い男「…それは恐らく…んでしょうね…ココを」


そう言って中に入る。


白の男「…何?!」


驚きの声が漏れる。


予想だにしていなかったのだろう。


それはそうだ。






夜11時45分―


―町田市 南 廃工場内―



薄暗かったが、工場内は所々電気が点いていた。


しかも以外と荒れていなかった。


かの様に―…


白の男「なんだコリャ?」


綺麗過ぎて疑問の声を上げる。


…矢張り。


黒い男「…綺麗過ぎるでしょ? 人が居たのが判りますよ」


そう言って先に進む。


白の男「この工場は買われたって言ってたな どういう事だ」


訝しみつつ聞く。


黒い男「多分広大なヤリ部屋ですよ」


白の男「化学工場でか? 変わった趣味だな」


呆れた様な物言いだった。


それは当然だ。


だだっ広いだけで危険物質満載のこんな所でヤリたいなんて気がしれん。


…だが、


黒い男「それが目的だったら?

逆に生化学工場跡地なんて誰も入りたがらない

しかも急に閉鎖した工場跡地なんて、危険過ぎる」


白の男「成る程な 逆手に取ったのか」


黒い男「そういう事 …でも、そんな財力は…」


白の男「一般人には無理だな…」


黒い男「そ、オイ、此処の名義を教えろ」


そうインカムに言う


青い男『了解です

此処は共同名義になってます…! 名義はええと…大橋漣司おおはしれんじ…』


白の男「さっきの俺が斃したヤツか!」


流石に驚きが漏れる。


黒い男「そ、大橋漣司は建造物侵入と下着泥棒で捕まった芸人

それまで相当稼いでいたが、淫行がバレて事務所をクビになり、表舞台からは姿を消した

それだけ稼いでいたのだから、それくらいの余裕はあったかも知れない…

続けろ」


答えつつ青い男に告げる。


青い男「あ、ハイ

河上託也かわかみたくや


その言葉には明らかに驚きが混じっていた。


白の男「それってお前が一ヶ月前受けたって上野の事件で捕まった淫行芸能人か」


黒い男「そう この件、関係在ったンスよ」


歩みを進めながら答える。


黒い男「この件は、ある関係の人間達の大罪が起こした事件です 其処に関係しているのはオレ達も知っている人ですよ

そうですよね? 居るのは判ってるんですよ!」


敢えて聞こえる様に大声でそう言いつつ、最奥の扉を蹴り開けた。




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