―第十一話―

二十八



―2016年4月 午後2時過ぎ―


―新宿御苑そばのカフェ近く―


急いでいるわけじゃないが、急がなくては―

その思いが自分を動かしていた。

今日は依頼主と二人を会わす日だ。

く必要は無いのだが、走っている。

遅れない為にはどうしたら良いか…それを考えてしまっている。

自分が遅れたら話にならない。

二人が先に来ているかも知れないし。

其処に自分が遅れたら恥だ。

そう考えている。

だが、以前、その考えは、注意された。


『クソ真面目だなー そんなんしたら変な空気になるだろうが』


黒い服の先輩に言われた。

ああそうか

と納得し、平謝りをしたら、また注意された。


『真面目か』


恥ずかしながらそれが抜けない。

昔からのクセ、自分にとっての風習というか…

変えなきゃと思いながら、またもこれが自分なんだとも思う。

そんな自分がこんな人助けをするなんて―

人と関わる仕事を手伝うなんて―

思いもしなかった。

あの後、自分から自分の疑問を問いに、話しに、聞かせて貰おうと行くなんて。



―2016年1月4日(月) 午後2時過ぎ―


―都内某所―


薄暗い中、階段を下りていく。

堅い金属製のカンカンという音が響く。


雄一「あの…―済みません


黒い男「おー来たか」


雄一「お邪魔します」


黒い男「…真面目だな」


開口二番目に又言われた。

…そんなに真面目なのか。

自分では普通のつもりなのだが。


雄一「あ…スミマセン」


それでも謝ってしまう。

それが自分なのだな。

そう思う。

これからも何度も思うのだろう。


雄一「あ…で、今回の事なんですが」


改まって言う。


雄一「アレは…何だったんですか?」


真剣な眼差しで問う。


黒い男「アレってどれだよ?」


サッパリと秒で返される。

そう言われればそうだ。

自分の中での事と相手の中での事が共有出来るほどわかり合っていない。


雄一「あぁ…! そうですよね…」


慌てて訂正し、説明を始める。


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