―第九話―

二十六



―午前0時30分頃―


―異界―


魔人化が解け、元の姿に戻る。


巨大な悪魔「ヲヲヲヲヲ…ァァァァァ… 私…は…」


燃え盛り、この空間から粒子となり消失していく巨大な悪魔ベルフェゴール

この世界に拡がる、に呑まれた瞬間、突如として、何も無い空間に居た。

何も無い、真っ白な空間。

対する場所に、雄一が立っていた。

その距離には、明らかにへだたりがあった。近寄りがたい距離。


雄一?「私は孤独だっただけだ」


直ぐに気付いた。

ああ、ベルフェゴールか。

雄一の姿をした。

て事はインナースペース精神世界か。此処は。

対話したいのか?コイツは。


黒い男「…だから孤独を埋めたくて雄一を?」


雄一ベルフェゴール「多群雄一は私と同じだった…孤独だったのだ…」


それは、悪魔とは思えないほど、純粋な吐露とろだった。


黒い男「孤独を共有したかった?」


雄一ベルフェゴール「そう…私は長い事、独りで居過ぎた…私は…ただ…」


その言葉を発する雄一の仕草は、とても本人には似付かわしくなく、明らかに別人と解る。

ベルフェゴールなのだ。

ベルフェゴールの苦痛を伝えているのだ。


黒い男「…ただ?」


雄一ベルフェゴールむかえ入れたかっただけなのだ…! イスラエルの民達を…!」


それは悲痛なうったえだった。


黒い男「…ペオルの事件か」


雄一ベルフェゴール「だが…! それは…それこそ信仰の違い…! 我々のしは彼等にとっての禁忌きんきだった…!」


黒い男「…」


雄一ベルフェゴール「持て成しが合わなかったのは申し訳ない…!

だが…! だが…! あんまりではないか…!」


黒い男「ヤハウェの怒りか…」


雄一ベルフェゴール「モアブの民達に疫病をくなど…!」


黒い男「…豊穣の神であるお前にとっての生産のいとなみは、勤勉なイスラエルの神にとっての悪だった… 何千年も前から今でも続く、宗教戦争だ

愚かしいとは思うがな」


雄一ベルフェゴール「…だが、私はそれで悟った… 結局は、視方みかたで物事は変わってしまう…!

だからは私は何百年も探求した…! そして、遂にその結果に辿り着いた…!

という事を…!」


黒い男「ベルフェゴールの探求…」


雄一ベルフェゴール「結局…女などその程度でしかないのだと…!」


その顔は、答えを見付け出した、答えを得られたという様な嬉々ききとした表情と声音こわねだった。


黒い男「…お前が一番辛いのは"裏切り"か…」


スラッと斬り捨てる様に言う。


雄一ベルフェゴール「女は裏切る…! あの預言者…! モーゼの様に裏切るのだ…! そんな奴らは

怠惰たいだだ…! 考えるのを拒否し、"神"と呼ばれる絶対の存在に従うだけ…!

そいつ等も罪人つみびとなのだ!」


嬉々とした言葉。

まるで自身が正しいと実感した言葉。

そこには正当性を誇示こじするかの様な素振そぶり。


黒い男「…だから雄一の彼女に甘言かんげんささやいた?」


雄一ベルフェゴール「そう!あの女は罪人つみびとだ!だから!」


黒い男「甘言を囁いて言い訳じゃない」


冷ややかで、それでいて、完全な否定がもっていた。


黒い男「ユウイチの彼女がどーかなんて知りはしない だが、甘言を囁いて介入した時点で、お前もイスラエルの神と変わりはしないだろう」


雄一ベルフェゴール「な…私は…!」


明らかに動揺が見て取れた。

だが続ける。


黒い男「神のクセに…長い事生きてきて精神力LV1か? 煽り耐性が無しか ひねくれてゴチャゴチャ言わずに良い方法を探す為に、民を護る為に、良い方向に持ってく為に努力をしろ お前が一番怠惰じゃねーか

裏切られてツライとか…ガキか

そんだけ長く生きて言い訳すんな

…生きてるは…ビミョーか 悪魔だし…

ま、理不尽だろうが裏切られてつらいから止めるじゃなく、

裏切られても裏切らず、より良い答えを出せ!

聴いてるだけで胸がムカつく…人間は皆そうして生きている…!

…勿論人間全てがそうとは言わんが

だが、神なら、上に立つ神らしく、民に模範もはんと為る正しさを視せてみろ」


そう言われ、雄一ベルフェゴールは、ポカーン(゜Д゜)としてしまった。

言われると思っていなかったのか、言葉が出てこなかった。

それと同時に、通り抜け、元の崩壊している空間に戻った。


黒い男「煉獄れんごくかえれ 其処でじっくり考えろ」


それ粒子尻目しりめに言い放つ。

上を見上げ、他の二人も矜羯羅こんがらに引き上げてもらった様だ。

自分も出よう。

左腰に持っている刀を構え、右手の"チカラ"を刀に込める。


黒い男「ふッ!」


瞬速の居合いで宙空を斬る。

無数の切れ目が宙空に走り、この次元を斬り裂く。

そして斬り裂いた部分が硝子ガラスの様に吹き飛び、元の世界が視得みえる。


黒い男「…じーさんも戻ったよな…」


そう言うと、そばを光の筋が通り抜け、裂け目を通っていった。

それは、自分に、"大丈夫だ"と言う様だった。

それを見届け、


黒い男「よっ」


に、その裂け目に入った。




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