―第七話―

二十四



―午前0時14分頃―


―異界―


巨大な悪魔ベルフェゴール「キィィィィィィ!!ァエエェェェェェ!!」


言葉に成らない壮絶な叫びと共に、複数の腕の指から触手が伸びる。

構え、動かずにいる自分の周囲から囲んで握り潰そうとする。

だが、跳躍し、それを避け、向かってくる無数の触手を逆に閻魔だけで斬り落とす。

そして、羽状になったコートを広げ、巨大な悪魔ベルフェゴールに近付いていく。

触手は、拡がり続ける咒符じゅふ曼荼羅まんだらの領域に入ろうとした瞬間、神聖な "チカラ" に弾かれ、霧散していく。


巨大な悪魔ベルフェゴール「キィィィィィアァァァァァ!!」


苦痛の声を上げ、もだえる。


巨大な悪魔ベルフェゴール何故なぜェ…! 何ァ故ェェェェ…!!」


それは疑問だった。


巨大な悪魔ベルフェゴール「何故居なくなる多群雄一!! 何故私を否定する?!

お前は私と同じハズなのにッ!?

あのヘブライ人の神が私をっ! あの中世の女共の様にッ!

一緒なのにィッ!」


駄々ダダをこねた子供の様な支離滅裂しりめつれつさだった。

その巨大な絶叫はこの空間全てに響いた。


黒い男「…解らなくはない」


触手を斬り伏せながらも、そう呟く。

もう其処は巨大な悪魔ベルフェゴールの前、黒い男の間合いだった。

そこまで来ると、刀を納刀し、コートを羽ばたかせ、ピタリとその場に止まる。

すると、足下に在る曼荼羅と周囲を取り囲む咒符が拡がり、光の粒子に成って霧散する。

それは、この空間全てに拡散した。

そして、それと同時に、足下に別の曼荼羅が浮かび、それを足場に跳躍、飛翔する。


黒い男「だが…」


巨大な悪魔ベルフェゴールの高さまで到達し、言う。


黒い男「人にはそれでも乗り越える者もいる…!」


巨大な悪魔ベルフェゴール「私は神だァァァァ!!」


そう絶叫し、鬼気迫ききせまる勢いで、襲いかかった。


黒い男「神な…」


目前にまで触手が迫ったところで、構えた両の手のやいばをゆるりと抜刀する。

それは、刀身から伸びた長大な炎の刃だった。

と同時に、それを大振りに、空間を斬り付け始める。

両刀による、横薙よこなぎ、交差斬り、斬り上げ、二段突き、袈裟けさ斬り、逆袈裟、縦回転斬り…演舞の如く四方八方を斬り付ける。

斬り刻まれた巨大な悪魔ベルフェゴールの触手が空中でスローモーにただよう。

そして左手の刀をさやにしまい、倶利伽羅ぐりからを両手で眼前がんぜんに構え―

同時に、空間全体に曼荼羅が浮かび上がり―

唱える。


黒い男「不動ふどう業炎陣ごうえんじん!」


そして、魔人の力を一気に注ぐ。

斬り付けた浄化の炎が一気に、爆発的に燃え上がる。

この密閉された世界全てが曼荼羅から拡がった業火で焼き尽くされる。


巨大な悪魔ベルフェゴール「ギィィィィアアアァァァァァ!!!!」


黒い男「人が万能とは言わん…だが、神や魔なら…上位の存在なら…乗り越えろ…!

あがめられる事をしてみせろ…!」


その叱責しっせきは、とても重みが在った。




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