―第五話―

十三



―午後11時55分―


―独鈷の滝―


何が起きたか解らなかった。

自分は池に落ちたハズなのに、こうして立っている。

独鈷の滝の前に。

でも、おかしい。

人が居なくなって、あの、昨日助けてくれた彼が眼の前にいる。

奥には、…黒い格好の男の人。

…誰だ?

…何故、そんな眼で視るのだろう―?

悪い事をした奴に向ける眼―

…嫌だな。

俺、何か悪い事したのか―?


青い男「さぁ―『選べ』よ―雄一クン―」


選ぶ―?

何を?

―そうか…『選ぶ』んだっけ…?

でも…

何を?



十四



―午後11時45分―


―独鈷の滝 裏―


そのが掴んだ腕は、だった。

二人の雄一。

お互いが重なり合い、一つに成った。


雄一ベルフェゴール「これで!私は肉体を得る!この集まりに集まった煩悩を得て! この地に降臨する!

カナンの地の復讐をするのだ!」


そこに跳躍してきた青い男が両手に着けたナックルで雄一ベルフェゴールに一撃見舞った。


青い男「オイ!雄一クンよ!『選ぶ』んだ!どうするか!」


その言葉は、さっき黒い男に言われた事だった。


追え、と言われた時に。


黒い男「思いっきりお前の"力"を込めてぶつけろ

『選ぶ』んだってな」


正直意味は理解していなかったが、解ってはいる。

この男には、"選択"が必要だと。


青い男「ぅわッ!」


だが、届かなかった。

その前に、雄一が腕を振るっただけで、衝撃が生まれ、強力な一撃を喰らった様に弾き飛ばされた。


雄一ベルフェゴール「もうそんなモノは効かん…」


青い男「そーかよ」


強がって見せたが、イマイチ理解出来ていない。

あの人は何故、―選択させる為とはいえ― コッチに雄一クンを

入れたのだろうか?

強くなってしまっては意味が無い。

そうなる前に倒すのがベストのハズなのに。

…なにかさくが在るのか。

それが解っても、逆境に自分を追い込む策は、矢張やはり好きになれない。

それが自分の答えだった。

そう思っていると、黒い男が追い付いていた。


黒い男「じゃ、言ってやれ」


青い男「…解りました

さぁ―『選べ』よ―雄一クン!」


雄一ベルフェゴール「聞こえてはいない― 否、聞こえていても、もう届かぬ…! 貴様の言葉なぞ!」


青い男「へぇ…"言葉"なら届けるの得意なんだけどなぁ…!」


その言葉の意味を雄一ベルフェゴールは理解出来なかった。

言霊師の言葉の意味を。

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