―最終話―



―2015年12月31日(木) 昼―


―都内某所―


薄暗い部屋でノートPCを開きながら、今回の事件を洗う。

事件の後はだ。


黒い男「…と、いうワケで、今回、事のあらましはそんなカンジだ」


青い男「ほー…て事は、結局のところ、目黒不動の結界が壊れたのは、その山羊の化物のせいだった…と」


薄暗い部屋で机に対し、報告し合う。相変わらず青い男の態度は、ラフだ。


黒い男「ま、ザックリ言えばな てか! お前等仕事雑過ぎ!」


言われた瞬間、焦りが出た。(ーー;)

だが、


青い男「そーんな事言われてもしょうがないじゃないスかー!坂本さん来るって知らないしィー!」


勢いで誤魔化す。

戻ってからその話を聞いて冷や汗が出た。

ミスはミスなのだが、それで誤魔化す。


黒い男「…ま、そらそうだ」


以外と納得が早い。これがこの人の良い部分なのだ、青い男は感じつつ、失敗のミスを突っ込まれる前に話題を変えた。


青い男「あー…それはそうと…なんで、ユウイチ君のばーちゃんが百々目鬼どどめきなんスかね?」


黒い男「ユウイチ…?」


その聞き慣れない名前に首を傾げ、脳内で検索する。


青い男「あーあの一般人ス そのフツーの」


それ判らないという態度に気付いて直ぐ様判るパスを出す。


黒い男「あぁ…その彼か… あの…夢の中に出てきてたっていう」


古い表現で、大袈裟ーに小指を立てる動作をしつつ答える。


青い男「そッス …実際には逃げられたらしいスケド」


黒い男「ほーん… ま、それはそれとして、

色々調べたが、そのユウイチ君のばーさんは、伊勢神宮の神木しんぼくを、持ち帰っている」


青い男「え?! マジで?!」


流石に驚いた。

あんな物に手は出せないし、出したら大変な事になる。


黒い男「いや、御神木祭で出た物だ 勿論あそこに生えてる樹齢千ウン百年のじゃない だが、御樋代木みひしろぎで使われる物だ

そのユウイチ君のばーさんはどうやってかそれを手に入れたらしい」


青い男「…みひしろぎ?」


そっちの方が気になってしまった。


黒い男「御樋代木みひしろぎってのは、神社で神体を納める器の事で、御船代みふなしろに入れ、神座しんざに置く、神体しんたいを納める器をとうとんで言うんだよ」


青い男「はー… んでもー…それだけで?」


説明を受け、意味は解った。

が、理論が繋がらず、首をかしげた。


黒い男「多分、知らなかったんじゃないか? それを業者とか偽ったヤツが近付いたりして安く売るーとか、お孫さんにーとかベタなヤツで

それでそこを、鳥目ちょうもくせいに憑かれたんじゃないか?と思わなくない」


青い男「なーるほど! それなら解るかも」


黒い男「イヤ…完全な憶測だから何とも言えん」


と、確実ではない意見に慎重になる。…が、


青い男「そッスか? でもそんな感じはする」


あっけらかんと言ったその言葉に、根拠は無かった。


黒い男「ま、本来、百々目鬼は女の盗人が成ると言うからな

どちらにせよ何かあったのかも知れない。

本題に戻るが、現代では鳥山石燕とりやませきえんの妖怪は、本人創作によるフィクションだと言われてる

百々目鬼のイメージは、多分邪気がそういった悪意のイメージで形成し取り憑いたんだろう」


青い男「あーそれならありうるかも」


すぐ納得した。理解力の高いコイツと話すのは楽だ。

そう心で思う。


青い男「あ、それと、火の玉みたいな化け物が襲ってきました

着いた時 スゲー恨みの念が強かったッス」


黒い男「ほーん… それは多分"天火てんか"だな」


青い男「てんか?」


黒い男「おう 逸話いつわ土地毎とちごとに在るが様々で、他にも、"てんぴ"、"てんび"とも読むな

一様にして、恨みを抱く死に方をした者の念が火に成って、生者せいじゃを襲うというものだ 目黒では…」


青い男「あ―! 明和の大火…!」


黒い男「そういう事」


青い男「だからか…」


そう呟き、頭の中で起きた物事を時系列順に並べ始める。

そこで一つ気付く。


青い男「でも、そうするとオレ等が行ったのに、なんでお二人が行ったんです?」


そう言われてみるみる顔が渋くなる。


黒い男「…元々オレが行く様に仕向けられてたんだよ…」


苦々しい表情で言う。


青い男「…は?」


黒い男「八王子神社行ったらな…」


苦々しい顔と八王子神社…それで答えは出た。


青い男「え…えぇーーー?! あの宮司さんがコレの?!」


黒い男「イヤ、正確には目黒神社なんだが…」


青い男「え?どゆことスか?」


目黒神社の依頼? 繋がらず意味が解らなくなった。


黒い男「つまり…あそこの矜羯羅童子はあの宮司じじーの馴染みでな… サイトに依頼登録をしたのが…」


青い男「その繋がりで宮司さんなんスね!解りましたよー!」


嬉々とした、答えを出せた事への喜びの表情。


黒い男「…ま、それは良い」


しかし、それを、苦虫にがむしを噛み潰した顔で、話を切り替える。


黒い男「あそこは五色不動ごしきふどうの一つとして、非常に強力な聖域だ

多数の神仏しんぶつが居座り、目黒を鎮守ちんしゅしている竜尾鬼たつおきの先祖がそうやってこの地を守護した…が」


青い男「が? …て!え?!坂本さん?!そーなンスか?!」


黒い男「まーそれはまた今度な…

その為の重要な神具が破壊されていた」


青い男「それってオレが行った独鈷杵どっこしょの滝と大行事権現だいぎょうじごんげん…」


黒い男「そして、"利剣りけん"な」


青い男「何スか?!それ!聞いてないスよ!」


知らぬワードに脊髄反射する。


黒い男「そらそーだ…ワザワザオレにしか伝えなかったんだからな… あのジジーは…」


思い出しながら激苦ゲキニガ(ー_ーメ)の顔で言う。


青い男「あ…そういう…」


その雰囲気をを察したのか、気の毒そーな気持ちで言う。


黒い男「ま、目黒不動は、煩悩ぼんのうを滅ぼす為の"独鈷杵"、大行事権現のほこらの、邪気を吸う"龍玉りゅうぎょく"、そして、邪悪なものを打ち破る"利剣"、その三つが特に重要だった それを破壊された事で、氣がよどんだ」


青い男「だから…でも、酷いッスね…最初から明かさないのは…」


都合良く使われた事に対し、気の毒そうに同情する。


黒い男「…それはもう良い…

かく、それによって、邪気が入り、"怠惰たいだ"の大罪が、真秀と山羊頭バフォメット顕現けんげんさせた」


青い男「でも、その坊主とヤギ頭はオレ達が帰った後も、目黒不動の中に居られたンスよね? それっておかしくないですか?」


黒い男「それはな、利剣の欠片を取り込んで、それを触媒しょくばいに顕現したからだよ」


青い男「?? ―どーゆう…?」


黒い男「つまり、砕けた欠片かけらそのものを取り込む事で、その利剣の力を使って顕現したって事」


青い男「そうか!だから、氣を正しても実体化出来てたし、坂本さんに斬られても復活出来たンスね!」


黒い男「そゆこと

そして、"閻魔えんま"が居座る事で、聖域としての地盤を固めていた …だが、」


最期の言葉には緊張があった。


その言い回しに、青い男は知らずか緊張した。


青い男「え…?」


黒い男「居ないんだ 閻魔のじーさん」


青い男「…は? あの、その刀の持ち主ですよね?」


黒い男の手元を指差し言う。


黒い男「まぁ、持ち主っつーか一部っつーか創ったつーか」


もう既に譲り受け、自分の魂と結びついている。

なので今はもう自分の一部というカンジなので、説明が難しい。


青い男「一緒に戦った仲間なんですよね? なのに…いない?」


黒い男「あー…まぁ、そうなんだよ…」


思考を元に戻し、そう言った所、ある疑問が鎌首をもたげる。

少し手で口元をおおい、一人考察し始めた。


黒い男「フラフラしてても氏神うじがみだからな… ? それとも…」


青い男がその発言から気付いた様に行った。


青い男「まだ終わってない…?」


その言葉に、全く別の事に気付いた。


黒い男「…誰に取り憑いた?」


それは当然の疑問だった。


青い男「え?」


その急な問い掛けに反応する。


黒い男「その"怠惰" 誰に憑いた?」


視線を青い男にやり、聞く。


それは確認だった。


対峙たいじした者への疑問―


知る者への問いだった。



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