第四十四話

 ※今回お話はゼクトさんの鬼畜成分高めですのでご注意(つд⊂)!

 

 レムナントの東側ではレムナントを護る戦士達とコボルトの大群の戦端が開かれていた。

 生存をかけた戦いであるためか、どちらも士気は非常に高い。

 高いのだが、一方は明らかにおかしかった。



 「ぬぅおおおおおおお! 夢の桃色生活がかかっとるんじゃあああああ!」


 「リリア様は俺のもんだぜ! ヒャッハー!」


 「アカネ様に踏んでもらうためにはテメーらが邪魔なんだよ! 失せろや!」


 「ミソラちゃんミソラちゃんミソラちゃんミソラちゃーん!」


 明らかに正気を失い、ついでに常識もどこかに置いてきたような雄叫びをあげながら凄まじい勢いでコボルトを狩っていく戦士達。

 彼らの目には純粋な欲望に彩られていた。いっそ清々しい程に。


 彼らがこんなに血迷っている理由は簡単だった。




 戦いが始まる前、町長や学園長、ギルドマスターが全体を鼓舞するために色々と話をした後にそれは起こった。


 「どうもみなさん、こんにちは。 リリアさまのしもべのみそらちゃんだよ」


 無表情ながらも愛らしい少女であるミソラが集まっている戦士達の前に立ち、なにやら良からぬ事を企んだ目で拡音石を使用する。


 「こんかいのたたかいはみんなたいへん。 ということでリリアさまからのていあん。 てきのそうだいしょうをうちとったひとには……」


 ミソラは少しだけ恥ずかしそうな表情(に見えるような演技で)で肩をはだけさせ、頬を紅潮させながら言葉を続ける。


 「リリアさまかあか姉かわたし。 すきなひとと……でーとするけんりをあ・げ・る」


 照れ臭そう(に見えるような演技)な表情でそう言い放った後、恥ずかしそうに後ろに下がっていた。


 それを見た男共の反応はすさまじかった。

 ただでさえ人命救助を行っていた時にその美貌と優しさ、強さに惹かれた者も多い。

 しかもリリアに至っては将来確実に大物になると分かっているので、逆玉の輿を狙えるかもしれない。

 美しく将来性もある女性とのデートの権利が手に入る可能性があると分かった彼等の士気は留まる事を知らず上がりっぱなしであった。


 一部特殊な趣味を持つ女性陣達も、アカネやミソラ、リリアの貞操を奪えると叫んでいた。

 ある意味この人物達が一番士気が高かったかもしれない。


 そんな士気バカ上がりの状態の彼等にミソラが支援魔法で強化を施しているため、激しい戦闘はある意味一方的な虐殺の様相を呈していた。


 しかし彼等は知らない。


 実はゼクトがこっそりと敵の首魁を潰しに行っている事を……。


 





 「……なんかテンションがおかしいな。 レムナントの戦士って特殊な士気の上げ方でもあるのか?」


 レムナントの兵士や冒険者達とコボルトの軍勢が衝突し、激しい戦闘が始まった。

 数の差がある分苦戦するかと思ったが美空の支援のおかげか思ったよりも……というよりも圧倒的にレムナント側が押している。

 

 支援魔法の大切さがよく分かる戦況だな。

 ……支援魔法だけだよな?




 飛翔符という滞空できる符を利用してレムナントの上空から戦況を眺めているが、コボルト側には特別な策があるようにも見えない。

 多面攻勢を考えてきただけでも十分に立派な作戦ではあるし、ゴブリンの軍勢やジャイアントオーガを巻き込んできたのは普通に考えたら脅威ではある。

 

 「……どこのどいつがこんな作戦を考えたのかは気になるが……。 少なくともコボルトが多少頭を使ったからといって考えつくようなものでもないと思うんだが。 お、アレがコボルトどもの頭かな?」


 考え事をしつつ、コボルトの軍勢の動きを見ていると明らかにおかしな偏り方をしている部分がある。

 軍勢のかなり後方で、目を凝らして見てみると一際目立った装備を身に纏ったコボルトがいる。

 コボルトというかワーウルフそっくりだな。


 

 「いっちょ行きますかね」


 

 飛翔符を足場にして、両足に力を込めて目標地点に向けて飛び出す。

 流星の如く落下しながら刀を抜き、目標を定める。


 「まずは周りの雑魚から」


 落下による勢いのままに一匹のコボルトの顔面に、上空から綺麗に蹴りを叩きこみ爆砕させる。

 勢いに逆らう事なく進路上にいるコボルト達を刀で切り刻み、うまい具合にコボルトキングの前に着地する。


 ……ゲーム内ではよくやってた技だけど、実際に体感すると結構怖いなこれ。

 程々にしておこう。



 周囲を見るといきなり落ちてきた事に驚いているのが大半だ。

 とはいえ仲間を殺された事に気付くと、雄叫びを上げてコボルト達はその爪牙をこちらに向けてきた。


 「はっはっはっは。 切り込み隊長のゼクトさんだ。 よろしく!」


 向かってくるコボルトを一瞬千撃の勢いで切り刻み、あっという間にコボルトキング以外を斬殺していく。

 

 以前某漫画で一振りで三人から四人を倒すってあったけど、このレベル帯になるとスキルの範囲内で一振りすれば二桁近く削れるから実に楽だ。

 楽なうえにちょっと気持ち良い。これが真の無双というやつだろうか。

 

 コボルトキング以外を徹底的に周りから排除し、掃除すること三分程度。

 カップラーメンが出来るまでの間に随分と敵も減ったが、流石に軍勢という事もあり、次から次に湧いてくる。


 『貴様、本当に人間か?』


 「一応カテゴリー上は人間だと思う。 ……コボルトの王様は随分流暢に話せるんだな」


 『王たるもの知識も必要だ。 ……その強さ、貴様が奴の目的か』


 「奴? 誰の事かぜひ教えて欲しいなぁ」


 実に気になるので尋ねてみたが、ワンコ……あいや失礼。

 犬畜生は答えてくれないみたいだ。

 格闘家のように両腕を前にだして構えるコボルトキング。

 ここからは拳で語れってことかな?


 一足で間合いに踏み込んできたコボルトキング。

 

 エイワスなんかと比べても断然こいつの方が速い。

 流石に犬の眷属なだけあって速度に関しては大したもんだと思う。

 勢いの乗った拳が迫ってくる。

 さて、どうしよう。


 ①よっしゃ、ステゴロ上等! かかってこいやぁ!

 ②面倒なので斬り捨てる。

 ③不意をついて鞘で顔面強打。

 ④その他。



 答えは④。

 

 向かってくる拳を避け、傀儡符を貼り付ける。

 魔法に対する抵抗力は低いようで、実に操作しやすい。


 『なんだ! 体が動かぬ!』


 「さてさて……。 お前のように気骨があって、拷問しても絶対に秘密を喋らないような奴の心を折るのは大変でな。 昔は爪を剥いだり生皮を剥いだりと色々やった事があるが口を開かない。 そういう奴に口を割らせるにはどうするかわかるか?」


 『何をする……つもりだ』


 「そういう一本芯の通った奴は嫌いじゃない。 そういう奴はたいてい自分が傷つけられ、殺されようとダンマリだ。 じゃあどうするか。 そいつ以外を傷つければいい」


 『何を……!?』


 傀儡符の支配下に入った以上、こいつに出来るのは声を上げる事だけだ。

 なまじ知識もあり、頭目としての資質があるのが裏目に出たな。


 コボルトキング自身の手で同胞の体を引き裂いていく。

 今のやり取りを見ていたコボルト達は事態を理解しているのかいないのか。

 コボルトキングがその体を引き裂くのに身を任せ抵抗せずにいた。


 『頼む! 止めてくれ! こんな……俺の手で同胞を傷つけるなど!?』


 「攻めこんできたのはお前達だ。 どんな理由があるにせよ、殺そうとするなら殺される覚悟は必要だと思わないか?」


 『敵と戦い死ぬ覚悟はある! だがこんな……! これは外道の行いだろう!』


 「まぁ間違いなく外道の行いだな。 で、どうする? もしお前らを焚きつけた奴の事を話すなら解いてやろう。 話さないならまたお前の手で仲間が一匹ずつ死んでいく……。 さぁ、どうする?」


 『貴様は……悪魔か!』


 「誉め言葉だな。 ほらほら、早く答えないと次が死ぬぞ」


 答えないので更にコボルトキングの歩を進めさせ、近くのコボルトに向けて動かす。

 

 見かねた他のコボルト、どうやら隊長格のような奴が直接俺を攻撃しにきた。

 実にいい判断だ。

 操作系のやつは本体を殺すのが一番手っ取り早いからな。


 「でも残念」


 間合いに入ると同時に一瞬で一刀両断にして血の海に沈めておく。


 『あぁぁぁ……! くっ……! 分かった、話す! 話すから頼む! 止めてくれ!』


 折れるのは意外と早かったな。

 あれだ。俺の紳士的な説得が功を奏したか。

 何処かから「ゼクトさん本気で鬼畜ですね!?」とか聞こえてきたような気がしなくもないけど。

 まぁ正義の味方というわけでもなし、いいよね。


 さてどんな情報を持っている……ん?


 何やら風の刃のようなものがコボルトキングに向かって飛んできている。

 映画なんかでよくあるアレか。

 組織の人間が秘密を喋ろうとすると消されるアレか。

 シリアスブレイカーのゼクトさんの前でそんな真似は許さん!


 「そいや」


 魔法で作られた風の刃なのか、取りあえず刀をぶつけてみるとあっという間に霧散した。

 しょぼっ。

 拮抗くらいするかと思ったが何の抵抗もなかったな。


 飛んできた方向に目を向けると、結構遠くから撃ってきたみたいだな。

 黒っぽいローブに頭まですっぽりと被っている奴がいる。

 どうやら色々知ってそうな奴だな。

 襲撃に失敗した事に気付いたようで、ローブを翻して走り出した。


 さてここでまた選択タイムだ。


 ①追いかけて鬼畜タイムよろしく尋問を開始する。

 ②追跡符を引っ付けて芋づる式に敵を発掘する。

 ③そんな事より虐殺だヒャッハー!

 ④その他。



 どうしようかな。

 個人的には一番なんだけど、あんまりやるとリリアから怒られそうだな。

 手堅く二番にしとくか。


 符を投げてマーキング出来た事を確認し、改めてコボルトキングへと向き直る。

 自分の手で同胞を殺した事に結構参っているみたいだな。


 イッタイダレガコンナコトヲー。


 まぁそんな冗談は置いておいて。

 こいつらどうしよう。レムナントの兵士達の声がかなり近づいてきている事を考えると、アレだけの数のコボルト達が殲滅されているという事になるんだが。

 

 ……恐ろしいなレムナントの兵士って。

 いまだに恐ろしいテンションで戦ってんのか。いくらミソラの補助があったとしてもここまでの快進撃を見せるとは。


 「……敗色は濃厚だな。 どうする? まだ戦うか?」


 『……このまま我々が逃げたとしても、貴様らは追ってくるのであろう? ならば最後まで戦うのみだ……。 とは言え貴様に勝てる気もせん。 我は心を折られたのだ……』


 「……撤退の合図は出せるのか?」


 『可能だが……』


 「じゃあ撤退させろ。 お前は一応総大将なんだろ? 責任をとれ」


 『…………そういう事か。 貴様は悪魔のように悪辣なだけかと思っていたが、慈悲の心もあるのだな』


 コボルトキングは諦めたような、吹っ切れたような顔で一度遠吠えをすると各所で同じような遠吠えが上がり、コボルト達が撤退を始めた。

 こういう時に犬の遠吠えって役立つな。

 人間からしたら今の遠吠えに撤退の意味があるとか全く分からん。

 というか悪辣とか人間の言葉が達者だなこいつ。


 「……最後の晴れ舞台だ。 盛大に行こうじゃないか」


 兵士達の声が近づいてきている。

 恐らくもうすぐここまで来るだろう。



 刀を抜き、正眼に構えてコボルトキングを見る。

 コボルトキングは上半身を伏せ、片手を地面につきもう片方の手に魔力を溜めている。

 コボルトの速度をもってあの腕で突貫されたら人間なんて余裕で死ぬな。


 数十匹のコボルト達がこちらを見守っているなか、王として最後の意地を見せるために。


 『我が名はコボルトの王ディアノフ。 王として、最後まで抗わせてもらう!』


 「俺の名前はゼクトだ。 英雄リリア様の使い魔だ。 気高き王に引導を渡してやるよ」


 

 互いに名乗りをあげ、極限まで空気が張りつめる。

 常人ならば息をするのも辛くなるようなチリチリとした雰囲気のなか。

 レムナントの兵士の一人が姿を見せる。


 次の瞬間。


 極限まで研ぎ澄まされた集中力のなかで、コボルトキングが一歩を踏み出す。

 最初に見せた一足での踏み込みよりも尚速く、地が弾ける程の踏み込みだった。

 神速符を使ったエイワスよりも尚速いその突撃による力を己が爪に乗せて突き出す。


 実に素晴らしい一撃だと思う。

 コボルトキングの爪がもうすぐ届くという刹那。

 称賛を送りたくなる程の一撃に合わせ、正眼に構えた刀を振り下ろす。

 音の壁を突き破る程の勢いのコボルトを上回る速度で一直線に叩き斬る。


 振り下ろされた剣撃はコボルトキングを一刀両断し、地面を割りその一撃はコボルトの背後までをも一息に両断した。

 コボルトキングの心意気に応えるために全力で振り下ろしたんだが、山河を斬るような一撃になっていた。

 

 どさりと体を横たえたコボルトキング。

 意外と満足そうな死に顔じゃないか。


 しばらくの沈黙のあと、仲間のコボルト達の遠吠えが広がり彼等は更に後退する速度を速めていった。

 同時にレムナントの兵士達から怨嗟の声があがる。



 「ちくしょおおおおおおおおおおおお!」


 「またあんたがリリア様とイチャイチャしやがんのかぁああああああああああ!」


 「アカネ様の御足に踏まれたかったぁああああああああああああ!」


 「ミソラたーーーーーーーーーーーーーーん!」


 「アッーーーーーーーー!」



 まさか敵の総大将を討ち取ってこんなにも恨みの籠った声をぶつけられるとは思わなかったですはい。

 せめてゼクトさんかっけぇ! とか言ってくれるかと思ったのになんだこれ。

 何人か血涙流してるますやん。

 

 おかしいなー。






 ※小話で遊びすぎ(*´-`)?

 そんなまさか(*´ノ∀`*)ハハハハ


 

 ミソラ「……うむぅ」

 アカネ「あら、桶なんて用意してどうしましたの?」

 ミソラ「あ、あか姉。 ちょっとこれさわってみて」

 アカネ「……なんですのこれ? 黒くてふわふわした……液体?」

 ミソラ「まぁまぁ。 がいはないから。 さきっぽだけでいいから」

 アカネ「さ、さきっぽだけよ? ……あら、不思議な感触。 気持ちいわね」

 ミソラ「さきっぽだけっていったのに、がばっといくあたりさすがあか姉」

 アカネ「もわもわというよりフワフワというか。 本当に不思議な感触」

 ミソラ「ちなみにわたしの触手のねんえき」 

 アカネ「…………え?」

 ミソラ「ねんえきをしぼりだしてますたーとろーしょんぷれいをしてみたい!」

 アカネ「さ、流石ミソラね。 まさか体液でろーしょんぷれいなんて」

 ミソラ「かんがえてみてよあか姉! ふたりでくんずほぐれつしてるときにこのふわふわがあったら!」

 アカネ「さ、最高に気持ちよさそうですわね! 裸で抱き合う二人! それを優しく包み込むミソラの粘液! ある意味、〇Pですわね!」

 ミソラ「〇にはつっこまないでおくね。 いざ、ますたーとのはっするたいむ!」

 アカネ「ずるいですわ! 私も行きますわ!」


 

 数時間後……。



 ミソラ「……まさかわたしのねんえきがじょうたいいじょうあつかいなんて……」

 アカネ「ご主人様にかかる瞬間に面白いように弾き飛ばされてましたわね……」

 ミソラ「じょうたいいじょうたいせい……きらい」

 アカネ「あれ? でも私も状態異常に耐性がありますけど弾きませんでしたわよね?」

 ミソラ「……あれ?」

 アカネ「もしかして……そういう風に誤魔化して実は吹き飛ばしたとかかしら?」

 ミソラ「ふ……。ふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふ」

 アカネ「み、ミソラ?」

 ミソラ「ふきとばせないくらいたいりょうに、ねんえきだしてやるよますたーーーー!」

 アカネ「きゃあああ! いくら何でも出しすぎですわ!」



 このあと怒られて掃除させられたのは言うまでもない……。

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