共同作業

勝利だギューちゃん

第1話

「あの世の存在は信じる?」

彼女にそう問われた。


彼女といっても、文字通りの3人称の意味で、

恋人という意味ではない。


彼女は僕の事を、「仲良し」と表現していた。

でもそれは、アイドルが「ファンの方たちとは、仲良しです」というが、

それと同じような感覚だろう・・・

いや、だったろう・・・


「正直答えると、信じない」

「どうして?」

答えは待ってもらった。


しばらく考える時間がほしかった。


でも、その答えを見つける前に、彼女は逝った。

死因は溺死。


その少し前に、彼女は入院をしていた。

検査入院なので、それ自体に問題はなかった。


でも、退院後の帰宅途中に、川でおぼれている子供を見つけて、彼女は助けに飛び込んだ。

子供は助かったが、彼女はそのまま・・・


君はは信じていたのか?

あの世の存在を・・・


「もしあるのなら、居心地がいいんだね」

「どうして?」

「だって、誰も帰って来ないんだもん。

地獄でも、この世よりは居心地がいいんだよ」

どこかで聞いた事のなる言葉が、口癖だった。


昔から、不老不死とは人類の夢とされていた。

僕も、小さい頃は憧れていた。


でも、だんだんとその気持ちは失せた。


人間どうなるかはわからない。

なので、1日を大切にしたいと思うが、なかなか上手くいかない。

一生の課題なのかもしれない・・・


時というものは、平等に流れる。

どんなに、えらい人が亡くなっても、身近な人が亡くなっても、

止まっても、戻ってもくれない。


時間にとって、それだけは平等だ。


通夜も葬儀も終わり、四十九日が過ぎた頃、

僕は、彼女の自宅にお邪魔させてもらった。


「あら、いらっしゃい」

彼女のお母さんが、温かく出迎えてくれた。


「突然おじゃまして、すいません。

実は、楓さんとお話したいことがありまして、よろしいでしょうか?」

「ええ、楓もよろこぶわ」

楓というのは、彼女の名前・・・


お母さんが気を使ってくれて、2人きりにしてもらった。


遺影の中の彼女は、優しく微笑んでいる。

今にも、声が聞えてきそうだ。


本来、お仏壇はお坊さん以外の人は、拝んではいけないのだが・・・

許してもらおう。


「楓さん、突然の事で驚いてるよ、せっかちな君らしいね」

当たり前だが答えない。


「早速だけど、答えを言うよ。僕があの世を信じないといった理由を」

気のせいか、遺影の写真が硬くなった気がした。


「あの世というものが、存在するのなら、この世も存在しない。

存在しなければ、僕たちあらゆる生き物の存在価値がなくなる。

あの世に縛られていては、おろそかになってしまう。」

上手く言えない。

でも、気持ちは伝わったと信じている。


「はい、これ」

彼女のお母さんから、手紙を渡された。


「失礼だけど、聞かせてもらったわ」

「いえ、構いませんが・・・」

「もし、あなたがそう言ったら、この手紙を渡してくれと、楓から頼まれたわ」

「楓さんからですか?」

お母さんは、頷いた。


手紙を見てみる。


「元気?


君がこれを読んでいるということは、私はもういないよね。

そして君は今、私の仏壇の前にいる。当たりでしょ?


(わかっていたみたいだな・・・)


私も、君の意見に賛成だよ。

私は、死ぬのが怖かった。

だから、あの世の存在を信じていた。


そうすれば、少しは死の恐怖から逃れられるから。


(昔の人は、その考えからあの世を作ったんだ』


でも、やはりあの世と言うロスタイムはいらないね。


私はリタイアしてしまったけど、君は最後まで走りぬけてね。


大好きだよ」


「お母さん、申し訳ないのですが」

「何かしら?」

「楓さんの遺品、ひとついただいていいですか?」

お門違いとは思う。

でも、勝手に口が開いた。


「そういうと思っていたわ。はい、これ」

「これは?」

「楓が、もしあなたが来たら、これを渡してくれって・・・」

白い箱があった。

中には何が入っているのだろう・・・


「悪いけど、中は君の家で開けてみて。

楓から、口止めされているから」

「わかりました。長々お邪魔して、申し訳ありません」

「いいえ。また来て頂戴ね」

僕は、おじぎをして、帰路についた。


家について、箱を開けてみた。

中身を見ておどろいた。

そして、涙が出た。

止まらなかった。


中には、書きかけの小説が入っていた。

A4サイズのノートに書かれているが、

話は途中でおわっている。


メモ書きが入っていた。


「○○くんへ、


これは私が書いた小説です。

でも、尻切れトンボになっちゃったね。


続きは君が書いて下さい。


これは、私と君との合作です。

最初で最後の共同作業です。


君の好きに書いて下さい。


頼んだよ」


小説の中の登場人物は、高校生の男女の2人だったが、

女の子が事故死するところで、終わっている。


僕は、早速ペンを握った。


「わかった、好きにさせたもらうよ」

小説の続きを書きはじめた。


長くなるであろう、小説を・・・

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共同作業 勝利だギューちゃん @tetsumusuhaarisu

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