水梨

蝉の声は途切れること無く

木造建築の昔ながらの家に響く。

その中でタンクトップを着ながら

扇風機に当たる少年がいる。

テレビでは海で泳ぐ人を見ると

羨ましく感じる。

ど田舎のここからでは

到底海など行けるはずもない。

鉄棒からぶら下がって見る青空は

田舎にある唯一の海だった。

やけくそになって僕はスイカを頬張った。

スイカにかけた塩。

スイカの水分。

あぁ、こんな所にも海があったんだ。

僕は2番目の海を見つけた。


本当の海が知りたい。


親父に相談した。

親父はこう答えた。

川に行って魚を釣ってこい。

そう親父は言った。


母に相談した。

母はこう答えた。

台所の塩使って

海作ればいいじゃない

そう母は言った。


爺さんに相談してみた。

爺さんはこう答えた。

田舎は緑の海じゃ。

そう爺さんは言って笑っていた。


婆さんに相談してみた。

婆さんはこう答えた。

海は危険じゃ。

そう婆さんは言って畑に行った。


この煩く暑苦しい夏から

早く逃げたいと思った。

だから、僕は不貞寝をした。



起きると何も変わらぬ日常がそこにあった。

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