第48話 永遠には続かない
衝撃、ひび割れ、破損。
全てが一瞬だった。
防衛ラインの突破。
カヘンから飛び出してきた急先鋒は、まっすぐにシオンのもとへと向かっている。
「マノ!」
声をかけたところで無駄だとわかっていた。彼は動けない。
「サハラさん……!」
苦し気な声が聴こえてくる。
防衛ラインを張っていたサンゴ・エイも、防御魔法が破られた衝撃で一時的に動けない。魔法だって使えない。
今動けるのは、サハラ・ユイただ一人。
けれども、動いていただろう。
ほかに誰かがいたとしても。
それくらい、身体が勝手に動いていた。
稼働できる魔法具に神経を集中。自動対応の術式を書き込んでいたものをすべて起動させる。
これで魔法具に込めた魔法が尽きるか本体が壊れない限り、防衛ラインの修復は自動で行われる。
古の魔法使いが張った防御は伊達じゃない。大部分は残っているからまだ大丈夫。
自動修復が行われている間にサンゴ・エイは持ち直す。だから。
たとえサハラがいなくても、残された一人を守ってくれる。
――シオンの目の前には、サハラの背中があった。
「やめろ!」
魔法具、展開。
サハラの持ち物のなかでも、一番防御力が低く、この実戦では投入していなかったもの。
防御には向かない。なぜならすぐに破られてしまうから。
古すぎて稚拙で、自動対応の術式すら受け付けない、容量が極めて低い自作の魔法道具。最初期型。
しかし、衝撃を殺すくらいにはなる。
ほんのわずかばかり軌道をそらす程度には。
「シオン、最初で最後だから許して」
同時に、シオンの身体がひとりでに動いた。
人心掌握魔法。
かけるまいとしていた相手に、全力で魔法をかけた。
彼は鈍い動きで、二歩だけ離れる。
――十分だった。
人心掌握魔法、解除。
なにかはすでにサハラの目の前。
「サハラああああああああ!」
衝撃を受け止めて、シオンの目の前で、サハラは後方へ吹き飛ばされた。
カヘンは止まらない。咆哮を上げながら、周りのものすべてを壊し続ける。
――思い出していた。
突然変異で魔法が使えるシオンが魔法を学ぶための学校に入ったこと。
魔法世界と言う濃い人間関係のなかで、ただ一人、孤独だった彼女のこと。
もの珍しさから話しかけてきてくれた学友も、シオンの使える魔法を知るとすっと離れていったこと。
そして、彼女が使えた魔法のこと。
似ていた。
似ていると思った。
だけど。
まったく似ていなかった。
だって彼女は、迷うことなくシオンを助けた。
そのための努力をしていた。
策を練り、根回しをし、準備を万端に。
きっと、そんなことさえ起きなければいいと願いながら。
自分のキャリアを棒に振ってまで、ともすれば、命を投げ出してまで。
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