第142鱗目:天霧家のお風呂事情

 突然ですが皆様、私にはとても可愛い妹がいます。可愛すぎて可愛すぎて見てるだけで一日の疲れが吹き飛ぶほど可愛い妹がいます。


 一応養子縁組を結んでいるので正確にはその子は私の娘にあたりますし、翼や尻尾も生えていますがそれでも私にとってあの子は妹であり、あの子にとって私は姉なのです。


 そしてそんな妹と私、天霧千紗は今日───────


「鈴ちゃん!銭湯いこっ!」


「えっ、やだ」


 可愛い可愛い妹である鈴ちゃんと一緒に銭湯へと行きます!


「でも今日はお家のお風呂使えないよ?」


 半秒もせず断られたけど、ただじゃ引き下がらないよ!


「そうだけど、いや確かに工事で使えないけどさ!そもそもそれの原因ちー姉が爆破OKしたからじゃん!僕の部屋にも入れないしさ!」


 怒った鈴ちゃんが顔ぷいってするの可愛いなぁ〜。


「ごめんねー?でもそのおかげで吹っ切れたし、お友達と仲直り出来たじゃない?それにいつまでも過ぎたことを気にしても仕方ないじゃない」


「まぁ………確かに……そうだけど…でも銭湯はいや!」


 まんまと丸め込まれた鈴ちゃんは少し恥ずかしそうにしながら納得したものの、それでも尚銭湯には行かないと強めに拒否してくる。


「えー、行こうよ鈴ちゃーん」


「やだったらやーだっ!」


 何故私の可愛い妹はそこまで銭湯を嫌がるのか、それは別に彼女が風呂嫌いだからという訳ではなく、銭湯という環境が彼女にとってダメなのだ。

 何故なら、天霧鈴香こと鈴ちゃんは数ヶ月前までは何の変哲もない男の子だったのだ。


 まぁいくら慣れたから私と入るのくらいは平気になったとはいえ、今から行く場所は女湯だからねぇ……そりゃ嫌がるよね。


「そうだ!日医会の本部にある僕の部屋でお風呂に入ろう!そうすればお金もかからないし!」


「でも行き来で相当時間かかっちゃうよ?」


「大丈夫!飛べば一瞬!」


 意地でも行きたくないのね鈴ちゃん、でもね。


「それだと帰りで湯冷めしちゃうねー。それに飛んじゃうとまた汚れるし、何よりさなかちゃんが嫌がるんじゃない?」


 そして私は恥ずかしがる鈴ちゃんを見てみたい!まぁそれを抜きにしてもこの時期に湯冷めしちゃうと風邪引くかもしれないからね。


「うぐぅっ…………」


「だから、ね?」


「っ〜〜!分かったよぅ!今日だけだからね!」


「うんうん!鈴ちゃんいい子いい子〜!」


 反論の余地なしと判断した鈴ちゃんが悔しそうにそう言うのを聞くと、私はぱあっと笑顔になりよしよしと鈴ちゃんの頭を撫でてあげるのだった。


 ーーーーーーーーーーー


「それじゃあ隆継、戻ったらここに集合で。また後でね」


「隆継くんもゆっくりしてくるんだよー」


「おーっす、そっちも……まぁ、ゆっくりすっきりしてこい」


「…………うん、してくる」


 家から出て約30分の距離にある銭湯に来た私達はそう言って隆継くんと別れると、女湯の方へとゾロゾロと入っていく。

 ちなみに鈴ちゃんの入浴許可は事前に取ってあるため、なんの問題もなく入浴する事が出来るのだが……


「鈴ちゃん大丈夫?」


「ひゃうっ!?なっ、なに!?ちー姉」


「すっごい緊張してたからちょっとね」


「えと、その…………こーいう場所って来た事無くって……」


 まぁそりゃ女湯なんて入った事無いはずだからねー、でもまぁだいたいこういうとこにいるのってだいたい─────────


「おばあちゃんとか子供とかだから、そこまで気にする必要はないよ」


「それを早く言ってくれぇぇぇ……」


「全く鈴は何を考えてたのよっ…………と、ふぅ」


「ふふふっ、さて着替えなきゃね。んーしょっ……と」


 安心したような、そんでもって気疲れしたように、頭と一緒に翼や尻尾をへにょんとさせた鈴ちゃんを見て私はふふっと笑うと、お風呂に入るべくさなかちゃんの横で服を脱ぎ始める。

 その最中ふと視線を感じた方に目をやると、そこには私とさなかちゃんを死んだ魚の目でじっと見る鈴ちゃんがいた。

 そして暫くすると鈴ちゃんはすっと自分の胸に手を当ててぺたぺたと触り、ズーンと肩だけでなく翼や尻尾を垂れ下げる。

 それを見た私とさなかちゃんは色々と堪えきれなくなり────────


「ぷっ……ふふっ………ぷくくっ…………!」


「っ〜!くふっ…………!ふふふっ……!」


「……!?あ、いやっ!べっ!べつに大きさがどうこうとか……気にしてなんてないからね!?」


「そっ、そうね、気にしなくても大丈夫よ鈴……まだほら、成長期が来るかもだし……ね?」


「でも鈴ちゃん、身長もだけど…………少し大きくなった?」


 まだ明確にわかる程影ではないけど、心做しかほんのりと少しだけお膨らみになってるような……


「ほんと!?」


「言われてみれば確かに……よかったじゃない鈴」


「うん!…………あっ」


「……ふふっ…………」


「ぷぷっ……!」


「〜〜っー!ふたりともっ!」


「「キャ〜〜」」


「あっ!こらっ!まってよー!」


 そうして私達は皆で賑やかにゆっくりとお風呂を過ごしたのでした。

 ちなみに鈴ちゃんはちびっ子達に寄って集られて余りゆっくり出来なかったみたいだったが、それもこれも鈴ちゃんが可愛いからだろう。

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