第135鱗目:9通目、龍娘
「……………………またか」
「どうした鈴香、石みたいに固まって」
「あーいや、またこれがね」
「またか……いい加減俺が断ってくるぞ?」
僕がそう言ってペラリと靴箱に入っていた便箋を見せると、隆継はため息をつくようにしてから明らかに機嫌を悪くしてそう言ってくる。
「んー……まぁ大丈夫だよ、相手にしても僕の答えは変わらないし、相手にして現状が悪化するかもしれないし」
ちー姉の受け売りだけど。
「まぁそうか、とりあえずなんかあったらすぐに言えよ?お前を守るのも俺とサナの役目だからな」
「はははははっ、頼りになるよ」
「絶対そう思ってねぇだろ鈴香、というかそれ何枚目だ?」
「んー」
ひーふーみーよーいつむー…………
「9枚目ー……かな?」
手元にあるその便箋をいつものようにスカートのポケットにしまいながら、僕は今まで入れられていたラブレターの数を数える。
「うげっ、そんなになのか……」
「そんなになんだよー、告白とかするなら真正面から言ってくればいいのに。というかそもそも僕のどこがいいのか」
こんな中身男じゃなくてさーちゃんとかとらちゃんみたいな中身も可愛い女の子に告白すればいいのに。
「そのちょくちょく見せる可愛い仕草じゃないの?」
「僕何かやってた?」
「やれやれと言わんばかりに首振ってたぞ」
「ありゃ……なーんか無意識に取っちゃうんだよねぇ…………」
そう言いつつ僕はまた無意識にえへへと頭に手を置いて笑ってたのに気が付き、すぐにその仕草をやめてこほんと咳払いをひとつする。
「そう言うのも仕草って言うんだぞ」
「うっさい」
「まぁそれはともかく、鈴ももう慣れたものよね。最初はパニックして「ふにゃらっせい」なんて言って破いちゃってたのに」
「うぅぅ…………もうそれは言わないでぇ……」
あれは黒歴史、黒歴史だからいじんないで……!
「まぁ隆継の黒歴史よりマシだけど」
「それは確かね」
「ちょっ!お前らぁ……!」
「きゃー隆継が怒ったー」
「逃げろ〜」
「待てやコラァ!」
「「きゃー!」」
さっきまでの深刻そうな雰囲気はどこへやら、僕達はそんなノリで追いかけっこをするようにして家へと帰っていったのだった。
路地裏からこちらをじっと見つめる不審な影に気がつくことも無く。
ーーーーーーーーーー
「9回も同じ人から?」
「うん、最後の文が全部一緒だから多分。さすがに3週間も経たないでこのペースは怖かったから一応」
「ううん、それで大丈夫よ鈴ちゃん。これは私達の方でもなにか対策考えておくから」
「ん、お願いちー姉」
夕飯の後、ちー姉の肩を叩きながら僕は今日も来ていたラブレターの話をちー姉にしていた。
今までは話す必要がないと思って話さなかったが、帰り道で流石にちー姉にも話しておこうと隆継達と決め、今に至るという訳だ。
「それにしてもまさか鈴ちゃんにラブレターがねぇ……」
「む、ニヤニヤしてきてー…………そんなちー姉にはこうだ!」
「あー、そこそこ!すっごく気持ちいい……!」
「どうだ!気持ちいいか!」
「すっごく気持ちいいよー!あーそこ!そこをもうちょい……!」
「うりゃあー!」
全力の多分1%くらいー!
「あー!鈴ちゃん最高!」
キャッキャとそんな風に賑やかにその日の残りも僕の1日は平和に過ぎていくのだった。
明日以降、あんな酷い目に会うとも知らずに。
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