第109鱗目:エアコン!龍娘!

 お盆も過ぎて夏休みもいよいよ残り半月程になった日の朝、皆より一足早く起きた僕はリビングで水を飲みながら、テレビで今日の天気や気温を見ていた。


『今日の気温は今年の夏でも一番の暑さで、気象庁からも長時間の外出は危険との発表が────』


 うへぇ、今日ってそんなに温度高くなるのか。

 正直エアコンつけると体冷えて寒くなるからあんまりつけたくないんだけど……これは皆の為にももうつけとこうかなぁ…………ん?


「あれ?エアコンつかない?」


 もしかして…………


 ーーーーーーーーーー


「えー!?エアコン壊れてるの!?」


「ごめんねさーちゃん」


「あ、いや、壊れたのは鈴が悪いわけじゃないもの、謝る必要はないわ」


 隆継やちー姉に続いてリビングに涼みに来たであろうさーちゃんに僕が手を合わせて謝ると、さーちゃんは僕の頭を撫でながらそう言ってくれる。


「サナ、新築のエアコンが壊れてるとかいう意味がわからない事態に驚くのは分かるが大声出さないでくれ、ストレスがマッハで溜まってしまう」


「こんなに暑いと苛立つのは分かるけど、少なくとも肌着とパンツだけのあんたの姿よりかは何倍もマシよ。鈴を見習いなさい鈴を、元はあんたと同じ男っていうのにこんなにしっかりしてる」


「あはははは……」


 肌着とパンツだけで床に寝転んでいる隆継に冷めた目を向けてさーちゃんはそう言うと、椅子に座ってから机にぺたんと倒れ伏す。


 でも僕も1人で暮らしてた頃は家であんな感じだったからなぁ…………ちょっとだけさーちゃんの評価が胸に痛い。

 というか服装関連は未だにちー姉の管理下だし。


「ただいまー……ってさなかちゃんもリビングに来てたのね」


「あ、千紗さんおかえりなさい。アタシもちょっと涼みに来たんですけど、エアコン壊れてるみたいで」


「そうなんだよねー、本当たまったもんじゃないよ。ねー鈴ちゃーん」


「うわっととと、いきなりは危ないよちー姉。それで修理どうだって?」


 さーちゃんにそう言いながらぐでーんと僕へ倒れ込んでくるちー姉を僕は翼で受け止めて、ちー姉がリビングを出てた理由である電話の結果を聞いてみる。


「そうそう、修理早くても明日になるんだって」


「「えぇぇー!!」」


 あらららら……そりゃきつい、隆継なんて今ですら若干水溜まり出来てるくらい汗かいてるのに……大丈夫かなぁ。


「嘘だろおい、短くても明日までこの暑さの中過ごすのか?」


「それは……流石に勘弁願いたいわ…………」


「ちょっと、これはねぇ……」


 流石にこのまま修理まで我慢って訳にするのはまずそうだなぁ……何か、何か涼しくなるような事……


「うーん…………ん?」


 ぐでーんとなってる皆を見て僕が顎に手を当てて涼しくなるような事を考えていると、ふと皆の視線が僕に向けられていることに気がつく。


「え、えーっと……皆?どうかした?僕に何か?」


「いや、鈴ちゃんに何かあったって訳じゃないんだけど……」


「鈴ってこんなに暑いのに……」


「顔色ひとつ変えない所か汗一滴もかいてねぇなぁって……」


 あ、なんかやな予感。


「鈴ちゃん!」「鈴香!」「鈴!」


「逃げる!」


「「「逃がさない!」」」


「みゅにゃあぁぁぁー!!!」


 嫌な予感を感じてくるりと身を翻し、僕は3人から逃げようとしたが逃げ出すのが少し遅く、僕は3人に飛び付かれて床に押し倒される。

 そしてそのまま3人は僕の翼やら腕やらに抱きついて来たものの、思ったよりも冷たくなかったからだろうか、なんだか微妙な雰囲気になってしまう。


「なんか……悪かったな鈴香」


「ごめん鈴、アタシちょっと暑さでやばいかもしれない」


「う、ううん。気にしないで二人共、暑いんだから仕方ないよ、うん。」


「鈴ちゃんが暑さにすっごい強いのかなぁ」


「「あ〜、それだぁ〜」」


 皆だいぶ参ってるなぁ………リビング以外にもエアコンついてれば良かったのに……………あっ。


「そういや僕の部屋にも確かエアコンあったような?」


 川の字の様に皆で床に倒れたまま寝転んでいると、僕はふと自分の部屋にもエアコンがあったことを思い出してそう呟く。

 そしてそれを聞いた3人は、じっと座った目で僕を見てきて……


「鈴〜?」


「鈴香……」


「鈴ちゃーん?」


「あはははは……」


 えーっとー……


「……ごめーんちゃい♪」


 そうあざとく謝るのだった。

 この後、リビングのエアコンの修理が終わるまで皆が僕の部屋に居着いていたのは、言うまでもあるまい。

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