77.おひろめ
「おお、ようのう、よいのう!」
シエラの目の前には、シエラのデザインした冒険者衣装を纏った三人の少女が立っていた。
「シエラさん、これ……かっこよくて最高ですね!」
前衛盾職のシュカには、動きやすく引っかからない衣装を用意した。
上半身のがっしりとした厚手の白いシャツは各部を魔物の革で補強してあり、腹部のコルセットを模した装備には複数のハードポイントを用意し、鎧やポーチなどを装着できるようになっている。
下半身は健康的なショートパンツに、しっかりとした黒いレギンスを合わせている。これらも上半身と同様に魔物素材をふんだんに使用し、シエラの付与魔法によって並の金属防具以上の防御能力を獲得している。
三人とも衣装のデザインと欲しい機能については相談して決めたのだが、シュカが実際に着てみると、活発なイメージと合わさって非常に似合っており感動的である。
「ど、どうでしょう……?」
エメライトは、注目されているのが恥ずかしいのか、視線をうろうろさせている。
彼女が着ているのは深緑色のふわりとスカートの広がるワンピースで、その上に白いエプロンドレスを着たメイド服のような衣装である。
シエラの(無駄な)こだわりで、スカートの下には純白のパニエを仕込んである。
とはいえこれらの素材も全て高品位の布地と魔物素材とのハイブリッドであり、防御能力はなかなかのものである。
スカートの左右には金属のフレームに入った青い魔石がはまっており、それぞれにエメライトの魔力を込めることで矢避けの加護と魔法に対する
なおこれらは通常の職人に頼むと驚くような金額を要求されるアクセサリーである。(そもそもエリドソルにはこれほどの装備を作成できる職人はいないのだが)この点だけでも、シエラは初心者組に甘すぎると言われても全く否定することはできないのだが、本人にその自覚はないのであった。
エプロンドレスにはカバーの付いた複数のポケットとハードポイントを備えている。前衛のシュカのものより数が多いのは、後衛のエメライトのほうがポーションをはじめとする魔道具を使用する機会が多いためである。
「……似合ってる?」
イヴもエメライトに影響されたのか多少恥ずかしそうな雰囲気である。
彼女の衣装は、セーラー服をベースにファンタジックなアレンジを加えたもので、深い紺色のセーラーに青いスカーフが印象的である。
各部にハードポイントを装備する他、右肩には魔物の革を使った防具を縫い付けてある。射撃時に《雷霆》のストックをあてることで、さらに安定した射撃ができるはずである。
下半身は短いキュロットスカートに、シュカのものと同じ素材の白いレギンスである。
イヴの装備品への付与魔法は、彼女の要望で回避能力を重点的に強化してある。弓兵でもあるイヴは後衛ながら高い機動力を有しており、敵の飛び道具を避けるのが主な戦闘スタイルなのである。
普段は全く色気のない地味な衣装を着ていたので、落ち着いたデザインとはいえおしゃれな衣装を着たイヴは、いつもよりさらに美人な印象だ。
「うむ、三人ともぴったりじゃな。よく似合うとるぞ」
心の中で拍手喝采しながら、シエラは満足げに頷いた。
アケミとアカリも三人を見て目を輝かせている。
「すっごーい……! とってもおしゃれだし、実戦的な機能も兼ね備えてるし……アカリお姉ちゃん、やっぱり私たちも欲しいよねー」
「そうですね……、現場用の装備は地味なものばかりという印象でしたけど、こんなに可愛らしいなんて……。でも、私はちょっと意外でした。イヴさん、以前はあんまりおしゃれしたがらないほうなのかと思ってましたから。すごく似合ってますよ!」
アカリに褒められたイヴは、目線を逸らす。
「……今回は、シエラに無理矢理……」
「私知ってますよ、シエラさんと楽しそうに相談されてたじゃないですかー」
「……ん……」
同じ馬車の中でデザインを相談していたので、イヴの言い訳はアカリには当然バレていたのだった。
そう返されたイヴは、肯定とも否定ともつかない返事をして、ガレンの後ろに回り込んで隠れてしまったと。
「あまりからかうでないぞ、アカリ。それにしてもエメライトとシュカも、なかなか様になっておるではないか」
「シエラさんのおかげですよ! こんなにいいものを作ってもらえるなんて」
「ほんと、です。わたし、絶対大事にします……!」
「いやまあ、大事にというよりはどんどん着て仕事に励んでくれたまえよ、二人とも。自動修復もかかっておるし簡単には破れはせんからのう」
「はい……!」
二人の元気な返事に、青春じゃのうと年寄りのような気持ちで頷くシエラ。
「イヴ、なんというか……変わったな」
ガレンは、自分の考えを表す言葉が見つからなかったのか、背後のイヴの姿を見ながらそう声をかけた。
「……そう?」
「ああ。衣装のこともそうだが……変に頑固だったのが、少し丸くなった、気がする」
「そうだな! シエラ殿と知り合ったおかげだ」
「間違いないね。僕はいいことだと思うよ」
「……そう、かな……」
エディンバラとギリアイルからもそう言われて、しかし全く自覚のないイヴは不思議そうに少し首を捻ったのであった。
そうして用事を終えた彼らがわいわいと賑やかに帰っていったあと、シエラはカウンターにネタ帳ノートを広げていた。
彼らの衣装はそれぞれ非常に気に入ってもらったようで、シエラとしても一安心というところだ。
「うむ、我ながらあやつらの衣装は完璧であったな。これも望みのものを作り出せるわしの技能の賜物か。……うむ、やはりわしもそろそろ自分の衣替えといくかのう!」
シエラは空きページを開くと、思いつく限りのネタをメモしていく。彼らの衣装作成によって思い出した情熱が溢れているのである。
自分用ならば素材は何を使うのも自由である。よって、天空城の素材倉庫の中身を思い出しつつ、アレを試すか、いやコレも捨てがたい……と、思索に耽っていったのであった。
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