45.こんごのよていを

「さて……これでひとまず完成としておこう」


 工房に戻ってきたシエラは、とりあえずやることだけやっておこうと思い作業をこなしていた。

 その結果、シエラの手元には青白い刀身の太刀が出来上がっていた。

 

「……フレンドリストもオンラインのままだったし、まあ……生きとるじゃろ」


 あまりに常識はずれの行動を取る友人に引きつつも、信頼はしているのでチクワの新しい武器を作ったのであった。

 素材はメインに例の白竜《ザ・ホワイト》のものを使用し、合金を作る素材として相性のよかった古代遺宝獣亀《エンシェント・アーティファクト・インテンスタートル》の爪や雷属性系統の上級魔物《エルダーエレメンタルウィスプ・サンダーボルト》の核を配合している。

 柄を握ると、刀身の内部に稲妻のような模様が一瞬走り、刀身が青白く淡く発光する。

 

「ふむ、よし。さて、試し斬りはわしでは扱えぬし――」

「それでは、私にお任せくださいませ、シエラ様」


 つぶやいた瞬間に返事が返り、人の気配のなかったはずの左脇にリサエラが笑顔で立っていた。

 

「う、うむ。ではこいつは任せるとしよう。わしはそろそろアイゼルコミットに戻るのでな」

「はい、承りました。私のほうでも、天空城をエリド・ソル王国近辺まで移動させるよう手配しておきますので」


 そう言ってリサエラに太刀を預け、シエラはアイゼルコミットへとリコールしたのであった。

 

 

 相変わらずシエラは《マウンテンハイク》を拠点にしているので、転移した先は自室として定着した一室である。

 一度、「長期滞在していて店側に不都合はないか」と店主のヘラルドに聞いたことがあるのだが、「そういう冒険者たちもいっぱいいるしよくある利用形態だよ、むしろ歓迎してるよ」という返答だったので、その言葉に甘えて錬金術具店の売上から先払いして居座っているという形である。

 ホテル暮らしのような格好だが、この世界でもホテル暮らしにお金がかかるのは事実である。その点ではやはり、手に職のある冒険者や錬金術師というのは一般的な職業よりも高給取りな部類にあたるらしい、という実感がある。

 

「おや、シエラちゃん、こんな夜更けに顔を見せるのは珍しいね」


 一階のロビー兼食堂に降りていくと、ヘラルドから声をかけられる。

 

「む、そうかなるほど、もうこんな時間じゃったか」


 シエラが時計に目をやると、ちょうど日付が変わろうかという時間であった。

 天空城でいろいろなことがあったおかげで、時間の感覚が少し飛んでしまっていた。

(エレビオニア時代から昼夜を問わず作業に没頭する癖のあるプレイヤーだったので、もはや治しようもない性質である)

 店内は完全に酒場と化しており、酒杯を合わせる音やにぎやかな喧騒で満たされている。


「……シエラ」


 一人つぶやいて納得していたシエラに呼びかけたのは、近くのテーブルに座っていたイヴだ。

 見れば、《黒鉄》のメンバーが揃って晩餐をしているところであった。

 

「おお、おぬしらか」


 寄っていくと、イヴが空いた椅子を隣に用意してくれたので、そこに座る。

 

「久方ぶりじゃな。おぬしらはまだ地方巡業中かや」


 シエラの問いに答えるのはリーダーのガレン。


「ああ。基本的には各地のダンジョン巡りなわけだが、まだ一箇所が終わっただけだ」

「この国、結構ダンジョン多いから大変だよ……」


 ギリアイルが遠い目でため息をつく。


「シエラ、そういえば……頼んでた封印具、できそう?」


 イヴに聞かれ、胸を張って示す。

 

「応よ。多少時間がかかってすまんかったが、なんとか効きそうなものを用意できたのでな」


 そう言いつつ、アイテムボックスを開き、一つのアイテムを取り出す。

 それは、白地の布に赤い紋様や文字の刻まれた呪符の束である。

 取り出されたそれを、《黒鉄》の面々が興味深そうに観察している。

 

「これはシエラ・ナハト・ツェーラ特性封印呪符《絶界符》じゃ。これを貼ったモノの中の呪いの類を遮断する効果がある。……正確には貼ったモノの呪いをこの世ならざる場所に飛ばし、流れ出さないようにしているんじゃが、まあ同じようなものだ」

「へえ……こいつが、ねえ……確かに、かなり強い聖属性の力を感じるな」


 感心するエディンバラに鼻高々のシエラ。


「うむ、そしてこの呪符の良いところは特別希少な素材を使用していないところじゃな。まあ技能的にわししか作成できない可能性が高いが、少なくとも材料が尽きるということはない。ただ、若干心配なのは現物で試験できたわけではないということじゃな……効果は十分あると思うんじゃがのう……」


 自身が作ったものの性能については自信のあるシエラだが、例の呪いの剣を実際に封じ込めることができるかどうかについては未確認なのが唯一の懸念事項であった。

 

「……なら、私たちと一緒に来ない?」


 シエラの思案顔を見てそう言ったのはイヴ。

 

「ふむ、まあ確認するにはそれが最も確実か……しかし、よいのか?」


 聞くと、イヴは小さくうなずく。

 

「シエラが来てくれると、私たちが助かる。ね、ガレンリーダー

「ああ。戦力的にも大歓迎だ。だが、シエラ殿の店はいいのか? しばらく帰ってこられないと思うが」

「別に生活費には困っておらんのでな、しばらく空ける程度は問題ない。得意客には悪いがな」


 トレーニングの後、毎日のように回復ポーションを買いに来ていたエディンバラに視線を向けて言うと、エディンバラは苦笑いを浮かべた。

 

「しばらく旅に出ることでもあるし……いくらか譲ってもらえると助かるが」

「わかっておるわかっておる。一番の得意客の意見は無視できんじゃろうて。ああ、そういえばいいものがあった。試作の《冷却護符》じゃ」


 シエラがアイテムボックスから以前作っていた護符を取り出してエディンバラに渡す。

 

「ほう、これは――おお!冷気が溢れてくるな……!」

「おぬし、この前言っておったじゃろ、冷やして飲みたいと。量産に先駆けて試作品が完成したのでな、持っておれ」

「これは助かる!」


 冷却護符に感動するエディンバラと、調子に乗って使用法などを語るシエラとが盛り上がる中、ガレンとギリアイルはやれやれと苦笑気味である。

「これは、賑やかな旅になりそうだ」

「いいんじゃないかな、たまにはこういうのもさ」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る