43.三人寄らば報告会
厨房にいたりサエラにチクワが戻ってきた旨を伝えると快く3人分の準備に切り替えてくれたため、シエラ、リサエラ、そしてチクワを交えての夕食が行われた。
夕飯の間はチクワが素直にリサエラの料理を絶賛しつつ食べ続けていたので情報交換とはいかなかったのだが、食後にようやく落ち着いて話を始めたのであった。
「しかしまあ、久しぶりに顔を見て安心したのう」
「おや、心配してくれていたでござるか、シェルマス殿」
「いや、別に……おぬしが寿命以外で死ぬところが想像つかぬわ」
シエラが多少げんなりして返すと、リサエラも同意してうなずく。
「まあ、定期的に倉庫に戦利品を預けていたのは私たちも知っていましたからね」
「そうじゃな。まさかチクワもハナビも、ゲームが現実になってもなおここまで無鉄砲だとは思わなかったがの」
リサエラもシエラも呆れた様子なのを見て、チクワが腕を組んで首をひねる。
「うーむ……未知の世界を自分の力で明らかにしていくというのは、《エレビオニア》ユーザー皆の欲求かとおもっていたのでござるが……」
「それはゲームだからじゃろ……怪我をすれば痛い、HPがゼロになったらどうなるかもわからぬような世界でそうそう危険な場所へは飛び込めんじゃろうて……」
「全くです。……そういえば、例の白竜――《ザ・ホワイト》といいましたっけ。アレはどこで戦ったんですか……?」
「む? ああ、奴でござるか。あれはどこぞの――なんといったかな、年中雪の積もる地域に非常に高い山があって、その最奥で戦ったのでござるよ」
「なぜそんな場所まで赴いたのじゃ、おぬし」
「旅をしていたときに、その山の麓の村で伝承を聞いたのでござる。なんでもあの山の頂上には世界の始まりから生きている竜がいて、このあたり一帯に加護と呪いを振りまき続けている――だとか」
思い出しつつ語るチクワに、呆れの色を強めるシエラ。
「……で、その伝承を信じて極寒の山を登ったと……おぬしよくもまあそんな適当な旅の仕方でやってこられたのう」
「当たれば良し、外れるならまた別の場所へゆけば良いだけでござる。しかしあの登山はなかなか過酷でよい修練でござったなあ、まさか中腹からすでにダンジョン化していて一週間戦いつつ登り続けることになるとは。といっても寒さのほうはシェルマスの
「対冷気ポーションかえ。なるほどやはり防寒に使えるのか……」
対冷気ポーションは、本来は冷気攻撃を使う魔物用の防御ポーションなのだが、効果時間も比較的長めのため、防寒にも使えたようである。そういえば、酷寒地域の冷気ダメージ軽減にも効果があったような気がしないでもないが、だいたいのプレイヤーは対冷気装備を整えてから挑むため、シエラも実践したことはなかったのである。
「それで途中にいる魔物を倒したりやりすごしたりして、奥にいる白竜と対峙したわけでござる。まあ強さはそれほどでもなかったのでござるが」
「なんじゃと……? あの白竜、レベルは三百二とあったが」
「ほう、それほどだったか。まあたしかに外皮は全く刃が通らなかったので、隙をついて何度か逆鱗を突いてやったら倒せてしまったのでござるな。不思議なもので、この世界においても竜の弱点というのは健在なのでござるなあ」
「チクワ様……そうは言いますが、おそらくこの世界ではかなりの偉業を達成してしまったのではないですか……? あと個人的には、白竜を倒してしまったことによる周辺への影響なども気になりますが……」
リサエラはもうなんと言ったらいいか、といった様子だ。
「そのあたりは拙者の管轄外なのでなあ。拙者はいい戦いができれば、周りからの評価などは全く気にならないタチでござるし」
やはりチクワは、シエラの知るチクワそのものだ。
異世界に来てしまったというのに自分をまっすぐ貫いているところもふくめて、やはりこやつはこやつだな……とシエラは納得してしまったのであった。
シエラ自身はこちらに来てから驚いたり動揺することばかりなので、多少は羨ましいと感じる部分もある。
「地元住民は動揺しておるじゃろうなあ……。まあよい、とりあえず次からは定期的に城へ顔を出すようにな」
「了解でござる。久々にリサエラ殿やハナビ殿とも手合わせしたいでござるしな」
そう話していると、入り口の扉がノックされる。
「エルマです」
「おお、入ってくれ」
「失礼いたします」
入ってきて深く腰を折ったのは天空城管理総括のエルマだ。
「ご報告したことがございまして、お食事の時間に失礼いたしました」
「いや、もう食後の雑談であったしな、何も問題はない。それでどういう用件かや」
シエラが聞くと、エルマは顔を上げどこからか資料を取り出しつつ言った。
「はっ、天空城周辺調査の調査に進展がありましたので、ご報告に参りました」
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