42.ござるよ
「――これでよし」
地下工房で槌を振るっていたシエラは、手を止めると空いた手で汗を拭う。
「名前は……ホワイトクラウン、と」
表示された半透明のウインドウに、あらかじめ考えておいた名前を入力し、閉じる。
閉じたウインドウの下には、白く輝く一振りの片手剣が鎮座していた。
飾り気のない長めの片手剣ではあるが、自然に淡く白く発光する不思議な刀身が特徴的である。
「しかしあの白竜の鱗……本当に金属だったとは……。いや、金属と呼ぶべきものかもわからぬが」
この片手剣の刃は、全てが白竜――《ザ・ホワイト》の鱗で作られている。
(シエラは基本的に新しい素材が手に入ったときは同じ形の片手剣を作って特性の把握や解析を行うきまりにしていた)
鍛冶魔法で強化した高温の火に長時間かけ、ようやく液体化したものを整形し、付与魔法の組み込みと整形を行ったのである。
高レベルな魔物にふさわしく付与容量も高かったようで、シエラが扱えるように付与した《種別書換:槌》と最大効力を誇る《自己修復:極》、さらに貫通能力の低い攻撃魔法を無効化する《完全切り払い:魔法攻撃》を付与することができた。
種別書換以外の付与はシエラ本来の付与の中では基本オプション、序の口といったところだが、種別を書き換えた上でこれらが共存しているというのは、今までなし得なかった快挙である。
「鱗単体でもこれだ、適切な合金の配合や処理を研究すれば、さらに先が目指せるな……よし、さっそく試し切りと――」
そう言ってシエラが剣に手を伸ばすより早く、背後から何者かの手が伸び、柄を取る。
「その役目、拙者がやるでござるよ」
自分以外の気配がなかった地下工房にいきなり現れた人物に、シエラは飛び上がってしまう。
「うおおう!? って、おま――チクワ!?」
「その通り、拙者にござる」
シエラが背後を振り向くと、そこには髪をオールバックにした和装の男が剣を握って立っていた。
「おまえ、今まで何を……いや何をしていたかはだいたい戦利品で知っておるが……。はぁ、とりあえず、久方ぶりじゃな」
シエラが差し出した手をチクワがごつく骨ばった手で握り返す。
「ああ、久しぶりでござるな。シェルマスは……本当におなごになってしまったようで。ほう、ふむ……」
腰を落としてじっくりと全身を見るチクワに、若干引くシエラ。
「おい……おまえ、そっちの趣味はなかったと記憶しておるが」
「ふむ? いやいや、他意はないでござるよ、侍嘘つかない」
「…………まあよい。ところでその剣、わし用じゃからおぬしは振れぬと思うぞ」
「む、ああ……妙な感触があると思えば、これは槌でござったか。そういえばいつも刀しか触ってこなかったのだが、拙者が振るとどうなるのでござろう」
「試してみればいい」
たしかに、とつぶやいたチクワが片手剣を握り、構え――手を振るった瞬間、剣が手から消え、工房の床とぶつかり軽い音を立てた。
「これは……」
「ご覧の通りじゃな。装備適正のない装備品を持つことはできるが、戦闘行為を行おうとした瞬間に装備が解除される。握っていた武器や、纏っていた防具は強制的に装備解除され、すり抜けて地に落ちる」
「なるほど……しかし異様にゲームらしい挙動、でござるな」
「うむ。ゲームにおける外見や能力の持ち込み、妙にゲームらしい世界の理、都合が良すぎることばかりじゃが――まあ、今は気にしても仕方あるまい」
シエラはそうつぶやくと、剣を鞘にしまい、インベントリに放り込んだ。
「まあそんなことより、もうすぐ夕飯時じゃ。リサエラを交えて情報の共有をするとしようではないか」
「了解した」
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