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「キャロル嬢、プライドとかないの?」


「プライドで金は降って来ませんから。」


「まあそれはそうだけど。

 …んー、どうしようか。」


 ルシウスは頬杖を付いたまま頭を悩ませる。


 先程の会話から察するにキャロルと侯爵家の溝は深く、修繕費を請求しよう物ならキャロルを除籍する可能性さえありそうだ。


 だがしかしキャロル個人の給与や資産がいくらあるかは分からないが足りるとは到底思えない。


 どうしようかと悩んでいるとバタバタとこちらに走ってくる男性がいた。


 ルシウスが顔を上げると男性はガバッとスライディングの如く土下座をしてきた。


「お初お目にかかります!

 ワインスト侯爵家次男クリス・ワインストでございます!!

 この度は愚妹が大変申し訳ございませんでした!!」


「えっ、う、うん?」


「あっお久しぶりです小兄様。」


「黙りなさいキャロル!

 お前も土下座しなさい!」


「もうしてます小兄様。」


「なら良い!

 ルシウス王太子殿下、この通り愚妹は少し思考回路に難があるだけなんです!!

 愚妹は決して王家に仇なす人間ではございません!

 この度の被害に関しましては私とキャロルの資産と給与から支払いますので何卒恩情をお願いしたく!!」


「あーうん、そうだね。

 今そこをどうするか相談してたんだよ。

 キャロル嬢を極刑に処す事は考えてないから安心してくれるかい?」


 ルシウスが若干引き気味に答えると男性はガバリと頭を上げた。


 目の色は違うがどことなく顔立ちがキャロルに似ている。


 目の輝きが妹には欠片もないが。


「ただね、2人分になったとしても国宝をやっちゃってるからね。

 足りるかどうか…。」


 ルシウスがそう言いながらチラリと視線を粉々に砕け散っている花瓶に向ける。


 花瓶だった残骸を見たクリスの顔がムンクの叫びの様に変わった。


「キャロル!!

 おまっ国宝割ってんのか?!!」


「…はい。

 あと多分宝物庫にある物も何点か…。」


「馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿!!

 いつも考えてから行動しろってあれだけ言っただろうが!!」


「馬鹿がゲシュタルト崩壊起こしそうですね小兄様。」


「冗談言える状況だと思ってんのか?!」


「ごめんなさい。」


 キャロルを揺さぶるクリスの目には涙が浮かんでいる。


 妹の仕出かした事態のデカさに相当焦っているのだろう。


 だが揺さぶりすぎてキャロルの意識が飛びそうになっていた。


 首がガクガク揺れている。

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