308

 八つ裂きじゃ済まさないと言い切るルシウスにリアムは憐れみの目を向けた。


「…それをキャロル妃に対して言えるようになりましょうよ陛下。」


「言ってるよ。

 言ってもどうにもならないんだよ。」


 結婚式でエルボーを喰らい初夜に薬剤の材料を取りに行かれたのはルシウスの苦い思い出だ。


 寝室のテーブルの上に置かれた『ちょっと出掛けて来ます』のメモを見て崩れ落ちた事は今でも忘れてはいない。


 何がちょっとだ。


 結局本人は海底神殿に出向いており2ヵ月帰って来なかった。


 もしかしたら初夜が余程嫌だったのかと帰って来たキャロルに恐る恐る尋ねると


「しょや?」


 と明らかに分かっていなかった。


 説明しようとしたが


「よく分かりませんがそこにいると薬の臭いが取れなくなりますよ陛下。」


 と言って部屋から追い出された。


 話を聞いた聖女がキャロルの様なタイプをフラグクラッシャーと言うのだと教えてくれた。


「ルシウス君大変だね…。」


 と弟と聖女2人に憐れまれたのも1度や2度ではない。


 ルシウスはもう一度長い溜息を吐いた後諦めて執務に戻ったのだった。







 結局キャロル達が帰って来たのは3ヵ月後の事だった。


 報告がてら執務室にやって来たレオンは帰って来て早々執務室で正座させられている。


「…何回言ったら分かるのかなレオン。」


「本当に悪かった…。」


 レオンはほぼ土下座状態であった。


 腕を組んで見下ろすルシウスのオーラが怖い。


「キャロルが私に言うのを忘れるのは当たり前なんだからレオンから伝えてって私何回も言ってるよね?」


「いや本当にごめん。

 俺もゴーウェンに着いてから知って…。」


 ルシウスは眉間の皺を解しながら土下座しているレオンを見下ろす。


「…まあレオンに言っても仕方ないか。

 それで?

 キャロルはどこ?

 部屋で薬でも作ってるの?」


 キャロルの名前を聞いたレオンの肩がビクリと震える。


 目線も泳いでおり頬を汗が伝っている。


「…レオン?

 キャロルは?」


「…た、多分王都の港。」


「…は?」


「ゴーウェン領に行ったらたまたま150年前バヌツスが枯れた件がバヌツスの横のアリーシュ領の仕業だって噂を聞いて調べに行こうってなって…。

 俺が1回ゴーウェン領の報告書出さなきゃって言ったらじゃあ港でご飯食べて待っとくから早く戻って来いって…。」


 ルシウスの眉間の皺が谷底レベルに刻まれた瞬間である。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る