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「じゃあ俺1回宿に寄ってくるからここで待ち合わせな。」


 レオンがリヤカーを離し走って宿に向かって行く。


 キャロルはヒラヒラとそちらに手を振りフードを深く被った。


 森を抜けると陽射しが強い。


 フードの中に熱気が籠るが日焼けをすると火傷の様になってしまう為被るしかない。


 キャロルはリヤカーを押しながらいつも薬を卸す街の治癒院に辿り着いた。


 数日置きに見る光景に気にする人はいない。


 キャロルはいつも通り代金と引き換えに薬を手渡し市場で食料を買い込みリヤカーに積み込む。


 ついでに1つ果物を買い毛玉にやる。


 10年続けた行為だ。


 飽きも慣れも通り越した。


 キャロルは積んだ買い物を引っ提げて森に戻る。


 普段はレオンの方が速い。


 だがまだレオンの姿は見当たらなかった。


 キャロルは木陰にリヤカーを止め先程買った串焼きを頬張る。


 風が心地好い。


 ウトウトと睡魔が襲う。


 その時横から足音が聞こえ眠気に抗いながら目を開ける。


 ようやく来たか。







 だが目の前にいたのは騎士団の制服を来た男。


 190センチはありそうな長身にミルクティー色の瞳がキャロルを見下ろしていた。


「…久しぶりだキャロル嬢。」


 その声に目を見開く。


「……リアム様?」


 キャロルの問い掛けにリアムはコクリと頷いた。


「なっなんでここに?」


「これを渡しに。」


 リアムがすっと封筒を差し出す。


 押された蝋印に見覚えがある。


 13歳の時受け取った封筒に押されていた蝋印。


 全員見合いしろという狂った手紙が入っていたあの封筒。


「…国王陛下からですか?」


 リアムは頷き開けろと促す。


 キャロルが読むのを見張るつもりらしい。


 キャロルは渋々封筒を開ける。


「えっと『25歳の爵位をもつ独身女性は全員見合いに参加する事』。

 …私爵位ないんですけど。

 しかも殿下諦めずまた見合い開催するつもりなんですか?」


 キャロルが眉間に皺を寄せるとリアムが口を開いた。


「まあそう言う事だ。

 そしてキャロル嬢は爵位がある。

 来てもらうぞ。」


「…は?

 いやないですって。」


 キャロルが訝しんでいるとバタバタとレオンが走って来た。

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