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 王妃はキャロルに向かって鼻を鳴らす。


「あらあら…。

 子供が熱に浮かされて妄言を吐いている様ですわね。

 今なら先程の発言も聞き流して差し上げます。

 …下がりなさい。」


 王妃に威圧されるがあの死の恐怖に比べれば何でもない。


 キャロルは生意気そうな笑みを返す。


「えぇ。

 どなたかが眠り続けてるルシウス王太子殿下に刺客を放ったあげく念入りに刃に毒まで仕込んで下さいましてね。

 私が変わりに受け目が覚めたのが昨日でして。

 お陰様で体調は最悪ですが頭は怒りで冴え渡っていますのでご心配なく。

 …妄言かどうかは最後まで聞いてから判断しても遅くはありませんでしょう?

 まだ昼前。

 時間はあるはずです。」


 キャロルは羊皮紙の束を取り上げる。


「…まずこちらは王妃陛下の別荘から見つかりました伝言の様な書き置きに御座います。

 これだけでは証拠にもなり得ない事は分かっておりますが流れを把握して頂く為皆様ご参照下さいませ。」


 羊皮紙の束を受け取った宰相の顔が青ざめる。


 急いで国王に渡すのが見えた。


 付近の貴族も回って来た羊皮紙を見て目を見開き口元を抑えている。


 それは赤が王妃の別荘から持って来てくれたあの書き置きだった。


 時渡りをする理由になった羊皮紙の束だ。


「…見ながらで良いのでお聞き下さいませ。

 私は最初それを手に入れましたが証拠に成りうる物ではなくまた魔術師が誰かも分かりませんでした。

 ただそこに書いてある事が事実だとするならば私が魔力暴走を起こした日、それがヒントになると考えたんです。

 そこに行けば犯行を犯した魔術師が分かると。」


 キャロルはそこまで話し息を吸い込む。


「ですから私は禁忌を犯しました。

 王族に復讐すると脅し無理矢理ルシウス王太子殿下を巻き込み時渡りを使用したのです。」


 キャロルの言葉に魔術師会と教会から悲鳴が上がる。


 キャロルは台車からアルブスの日記を取り上げた。


「時渡りをした際に見つかったワインスト家の執事長アルブスの日記でございます。

 こちらが時渡りを行った証拠。

 現在ルシウス王太子殿下が倒れている原因は過去で私にかかるはずだった禁術の暴発と私の魔力暴走による物でございます。」


 魔術師会から怒号が上がる。


 破門だと叫ばれているが望む所だ。

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