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「あっあととーたまが今日遅くなるけど勝手に出かけない様見張ってなさいって言われました。」


「お父様も悪の手先だと一昨日教えたでしょう。

 耳を貸してはなりませんよ。」


「でもにーたまが『かーたまは魔術バカで色々危ないからとーたまが仕事の間は僕達が見張らなきゃダメなんだよ』って言ってましたよ。」


「…それはグリム兄様?

 クリス兄様?」


「りょーほーですね。」


「まじでか。」


 女性がガックリと項垂れている。


 キャロルだって項垂れたい。


 色々残念過ぎる。


「本当にキャロルそっくりな母君だね。」


「…嘘でしょ。」


 ルシウスを恨めしげに睨みつけるがほんとだよと笑われてしまう。


 ここまで自分は残念だろうか。


 いやそれはあるまい。


「…まっ仕方ない。

 じゃあキャロル、今日はお母様が魔術見せてあげましょうか。」


「マーシャはいいんですか?」


「いいのいいの。

 おいでキャロル。」


 女性は幼いキャロルを抱き上げて膝に乗せる。


 キャロルは頬にかかる母の髪がくすぐったかったのか身を捩って笑っている。


「じゃあいきますよー。」


 そう言って母は花を1輪摘むとふわっと息を吹きかける。


 花は蝶に変わりキャロルの鼻に止まった。


 キャロルはキャッキャッと笑い声をあげる。


 ただの初級の幻覚の魔術だ。


 だがキャロルは思わず口元を抑える。


 香った魔力の匂いがまるで太陽の様で。


 チラリと見えた女性の横顔があまりにも幸せそうな笑顔で。


 幼いキャロルの笑顔を見て笑っている様で。


 もしかしたら自分は愛されていたのだろうか。


 この女性に。


 何かが込み上げて来て爆発してしまいそうな程苦しくなる。


 アルブスがキャロルの背中をゆっくりとさする。


「お嬢様とアイラ様は毎日こうしていらっしゃるんですよ。

 いつもアイラ様の魔術を見てお嬢様は笑い、そして二人共笑い疲れて眠ってしまわれるのです。

 幸せな光景で儂は何よりも好きなんですよ。」


 キャロルは頷く事しか出来ない。


 何を言えばいい。


 何と言えばいいのだ。


 この気持ちに名前などあるのだろうか。


 苦しくて締め付ける様に喉が傷んで心臓の動きが止まるかの様なこの気持ちを人は何と呼ぶのだろうか。


 苦しくて堪らないのにこの光景を目に焼き付けたいと願うこの気持ちの名前など自分は知らない。


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