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 ルシウスは皮袋から大金貨を1枚取り出し少年に手渡す。


「うわっ大金貨とか久々に見たっすよ。

 もしかしてその中身全部大金貨っすか?

 おっそろしいっすねえ。

 えーっとお返しが金貨938枚…。」


 あったかなあーと言いながら少年は背負っていたカバンから皮袋を取り出し金貨をひっくり返して数え始める。


 何だか申し訳ない。


「931、932…はい938枚っすね。

 お確かめ下さい。」


「ああ。

 大丈夫だ。」


「あとこちらスタンプカード差し上げるっす。

 金貨10枚お支払い毎にスタンプを1個押しますんで今回は6個押しときます。

 10個貯める毎に次回ご利用時5割引という破格サービスが受けられますので是非貯めて下さい。」


「へー新しいサービス始めたんだ。」


「そうなんすよ。

 前の初回割引キャンペーンだとリピーターに繋がりにくいって事でこのサービスを始めてみたんすよね。」


 なかなか経営も頑張っているらしい。


 密偵のスタンプカードなど聞いた事がないが。


 どこにしまっておくべきかこんなに悩むカードも中々あるまい。


 少年は懐から鳩を取り出し足首に括りつけられた筒に羊皮紙を入れる。


 まるで奇術だ。


 少年が鳩を窓の外に投げ鈍色の笛を吹く。


 鳩は塔の上を旋回していたが2分程するとどこかへ飛んで行ってしまった。


「では今からご依頼開始となるっす。

 14日後のご都合の良い時間に笛を鳴らして下されば来ますんで。

 ではまたー。」


 そう言うと少年はひらりと赤髪を靡かせ窓から飛び降りた。


 慌てて下を見るが少年の姿はもうない。


 まるで幻のようだ。


 キャロルは全く気にしていないのかジョッキに継いだ麦酒を飲んでいる。


「…なかなか衝撃的な経験だね。」


「そうですか?

 そのうち慣れますよ。

 あっ殿下にその笛差し上げますんでまた使ってやって下さい。」


「…使う時が来ない事を祈っておくよ。」


 ルシウスはそう答えながらスタンプカードと笛を胸ポケットにしまう。


 これは後で金庫行きである。


 ルシウスもベッドに腰掛けワインを煽った。


 思い出して笑いが込み上げてくる。


 意味が分からなさ過ぎた。


「密偵のスタンプカードって…。

 さすがキャロルの育てた密偵だよね。

 ほんとなんか凄いのに色々残念。」


 肩を震わせて笑い出したルシウスにキャロルは不貞腐れる。


「…やっぱり殿下私の事馬鹿にしてますよね?」


「いやもう…ほんと何で全部斜め上なのさ。」

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