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「ああ、そうみたいだぞ。」


 レオンが答えるとルシウスはキャロルの前の席にカバンを置いた。


 ルシウスも窓際が良いらしい。


「挨拶は大丈夫そうなのか?」


「ああ、問題ないよ。

 一応原稿に目だけ通してもらっただけだから。」


 レオンの問い掛けにルシウスが振り向き笑って答える。


 その瞬間キャロルの肩に痛みが走った。


「痛…。

 何するんですか彩花様。」


 彩花嬢がキャロルの肩をがしっと掴んでいる。


 キャロルが苦情を述べるが彩花嬢は金魚の様に口をパクパクさせるだけだ。


 とうとう壊れた様だ。


 キャロルの声でルシウスは彩花嬢に気が付いたのか訝しげな視線を投げキャロルに説明しろと言う目を向けた。


「えっと…聖女の彩花様です。」


「ああ。

 初めましてかな?

 私は第1王子のルシウス・ノア・マリアヌ。

 弟がいつも世話になってるね。」


 ルシウスはにこりといつもの似非王子スマイルを浮かべて彩花嬢に話し掛ける。


「えっと、あの、にっ西野彩花です…。」


 めちゃくちゃ噛みまくっている。


 どうした彩花嬢。


 キャロルが彩花嬢の方に体を向けると彩花嬢は両手で肩を掴みブンブンと首を横に振りまくる。


「無理無理無理無理!

 何この人!

 ヤバいって!」


 小声なのに迫力が凄い。


 鬼気迫るとは正にこの事だ。


「落ち着いて下さい彩花様。

 あと肩が痛いです。」


「超イケメンじゃん!

 神じゃん!

 笑顔とか人外じゃん!

 ヤバいヤバいヤバい!」


「今傍から見て彩花様の方がヤバいです。

 あとほんとに肩が痛いです。」


 キャロルが宥めるとようやく肩を離してくれた。


 彩花嬢の顔が真っ赤だ。


「どうしよう…めちゃくちゃカッコ良い…。」


「分かりましたから。

 どうしようって何をどうしたいんですか。」


「仲良くなりたい。

 あわよくばお付き合いしたい、結婚して欲しい、幸せな家庭を築きたい、一軒家を建てて大型犬を庭で飼いたい。」


「なるほど。

 欲望に忠実で素晴らしいです。」


 挨拶から将来の家庭まで話が飛んでしまった。


 よほどどストライクだったらしい。


 確かに見た目は極上ではあるから無理はないのだが。


「仲良くなりたいならまずきちんと挨拶しなきゃ無理ですよ。

 まだ名前しか言ってません。」


「あっそっか!

 あっあのルシウス君!」


「えっ?」


 キョトンとしているルシウスにガバッと彩花嬢が頭を下げ手を差し出す。


「結婚を前提に友達になって下さい!!」


「…は?」

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