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 あの後無事にキャロルは塔に戻って来ていた。


 天井裏に戻る際上がれなくて「本当に1人でどうする気だったの?」とルシウスに呆れられたりもしたが、これはこれそれはそれだ。


 上手くいったならそれで良いのだ。


 キャロルは今早くルシウスが来ないかと部屋をぐるぐる歩き回っていた。


 早く読みたい。


 無理だと思っていたこの呪いが解けるかもしれないのだ。


 キャロルは今13年の人生の中で1番他人が来るのを待っているだろう。


 キャロルが部屋を98周した頃ようやくルシウスが塔に現れた。


「遅いですよ。」


「ごめんね。

 朝イチの謁見と茶会だけどうしても終わらせなきゃいけなくて。」


 これでもかなり急いだんだよと苦笑いしながらルシウスはおコタに入る。


 背負った鞄から書物を取り出しておコタの上に詰んだ。


 キャロルは飛び付くように本を手に取る。


 ルシウスはそれを見ながら鞄から朝食のサンドイッチを取り出し並べ紅茶を注ぎ出した。


「殿下は読まないんですか?」


「私はもう読んだからゆっくり読んだらいいよ。

 ただ気になる事がいくつかあったからキャロルが読み終わったら話をしようか。」


 そう言ってルシウスは紅茶片手に執務を始めてしまった。


 窓から入る陽射しが反射してルシウスの髪がペンを動かす度にサラサラと動き水晶の様に煌めく。


 キャロルはその髪さえも憎らしくて毟りたくなった。


 キャロルがこんなにも待っていたと言うのにこいつは何とここへ来る前に読み切っていたと言うのだ。


 そんな時間があったならさっさと持って来いと文句を言いたくなったが黙ってまた文章に目を戻す。


 今はルシウスを禿げさせる事を考えている場合ではない。


 キャロルの呪いを解く鍵を探すのが先決だ。


 ハムとレタスが挟まれたサンドイッチを頬張りながらキャロルは夢中で本に目を走らせた。


 執務をしていたはずのルシウスがいつの間にかペンを止め瞳に怒りをチラつかせていた事に、本に齧り付いていたキャロルは気が付かなかった。



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