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「…分かりました。

 とりあえず止めて貰えますか?」


「止める?!

 どうやって止めんの?!」


「今流している魔力を止めるだけですよ。」


 彩花嬢はあわあわとしながら手を握りしめたり開いたりと忙しなく動いている。


 だが水はなくならない。


「キャロルさん!

 どうしよう止まらない!」


「止まらなくても止めて下さい。

 魔術とはその魔術に見合った魔力を流し止められてこそ魔術です。

 …まあ大丈夫ですよ。

 最悪魔力が切れれば勝手に止まりますから。」


「切れるっていつ?!」


「さあ…まあAなんでこの感じは2日か3日位じゃないですか?」


「そんなにこのままなの?!」


 彩花嬢が喚いているがキャロルは気にしない。


 魔力を流し止めるのは基礎の基礎なのだ。


 これが出来なければ魔術を教える事は出来ない。


 彩花嬢はキャンキャン喚いていたがキャロルが動く気が本当にないと分かると必死で止めようとし始めた。


 そうして漸く止まったのは日が傾き既に薄暗くなる頃であった。


「でっ出来たあああ!!!」


「お疲れ様でした。」


 キャロルは椅子に腰掛けたままぱちぱちと気の抜けた拍手を送る。


 彩花嬢ももっと褒めろと言いたいのか頬を膨らませていた。


 だが生憎キャロルは褒めて伸ばす教育方針ではない。


 褒めても無表情の為バカにしてんのかと言われてしまうので褒めないだけではあるのだが。


「しかし彩花様、私は掌の上に球状の水の球を出すイメージでと言いましたよね?」


「…はい。」


「ですが貴女のは掌から水が噴水の様に出ただけでした。

 何が原因だと思いますか?」


「…魔力の調節が出来ていなかったから?」


「そうですね。

 それとあともう1つ、キチンとイメージ出来ていなかったからです。

 魔術とは魔力量の調節とイメージが全てです。

 恐らく彩花様は水を出す事に必死になり水の球をイメージする事が出来ていなかったのだと分かります。」


「…はあ。」


 キャロルは羊皮紙にペンを走らせ彩花嬢に渡す。


「彩花様、文字も読めますか?」


「ううん。

 話すのは大丈夫なんだけど読み書きは今はまだ簡単な単語を訳して覚えてる所。」


「そうですか。

 ではこれは宿題が書いてあります。

『ウォーターボール』で水の球を出しそれを丸一日持続出来るようにする事。

 2週間後のまた私が教える日までに出来るようになっておいて下さい。

 出来ていなければその日は次の事は教えませんので頑張って下さいね。」

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