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「まあそうでしょうね。

 因みにこの国の言葉は降臨されてから覚えられたんですか?」


「ううん。

 マリアヌ国だっけ?

 この国の言葉だけは最初から分かったんだ。

 よその国の言葉はさっぱりだから意味分かんなかったけど。」


「なるほどなるほど。

 まあそうなんじゃないかとは思いましたが。」


 さすがに1ヵ月でここまで話せる人間は中々いないだろう。


 やはり異世界から来た事の副産物だったらしい。


「彩花様は教育を受けたと仰いましたがそれはあくまで異世界での話ですよね?」


「…そうだけど。」


「これが第2の理由なんですよ。

 彩花様の今まで習った事と全く違う物を覚えなくてはならないので大変だと思ったんです。

 地理や歴史、風土、魔術、マリアヌ国の食物、そして我が国におけるマナー。

 この全てを受け入れこなすのは難しいのではないかと。」


「…必死でやればきっと出来るもん!」


「今現在覚える気もなく王太子様に会う為だけに私を教師に選んでいる時点で必死さは見えませんがね。」


 キャロルの言葉に彩花嬢の顔が真っ赤に染まる。


 大分怒っているようだ。


「それとやはり覚える以前に恐らく育ってきた環境が違い過ぎるというのもネックだと思いますよ。」


「…。」


 彩花嬢がキャロルを睨み付けている。


 いいぞ、あともう一息でキャロルは教師役から外されるはずだ。


「例えばですがその格好。

 他の方に何か言われませんでした?」


「…色々言われたけどこれは日本での正装だから良いの。

 制服なら葬儀にだって出れるし。」


「そうですか。

 しかし我が国では貴女のその格好は全裸と大差ないと覚えておいて下さい。」


 キャロルの言葉に最早涙目になっている。


「ね?

 異世界から来てこちらのマナーを理解するのも受け入れるのも難しい上に反抗してその格好で来られたわけですよね。

 我が国で王太子様と結婚して将来王妃様になりたいと言う方がそれで良いと思いますか?

 王妃様とは国母です。

 国の代表が自分の国ではこれがマナーだと全裸で現れたとして納得がいきますか?

 私なら到底無理ですね。」


 彩花嬢は何も答えない。


 唇を噛み締めて地面を睨んでいる。


 キャロルは紅茶を飲み干して立ち上がった。


「…王妃様には私から魔術よりもまずこの国の常識からゆっくり教えた方が良いと手紙を送っておきますね。

 では精々頑張って下さい。」


 ヒラヒラと手を振り立ち去るキャロルの背中を彩花嬢は鋭く睨み付けていたのだった。

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