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「…跳ね回っているようにしか見えませんが。」


「そうだね。

 彼女達は本来海の中に住む種族だから余り水上で機敏に動けないんだよ。

 殴るにしてもまず尾ビレで体を支えなきゃダメだろう?

 そんな事上手く出来ないから殴ろうとしてバランスを崩して海に落ちてるんだよ。

 だからこの喧嘩は決着がつかないだろうね。」


 なるほど。


 跳ね回っていたわけではなく彼女達は真剣に殴り合いをしようとしていたらしい。


 上手くいかないなら海の中でやれば良いだけなはずなのに少々頭が良くないのだろう。


 喧嘩は同じレベル同士でしか起こらないというのは本当なのかもしれない。


 船がアスピドケロンの横を通り過ぎるが人魚達は殴り合いに夢中で気が付いていない。


 きっと後からまたお前のせいで獲物がいなくなったと喧嘩するのだろう。


 不毛な争いとは正にこの事だ。


「…変な種族ですね。」


「普通に出会うと本当に神秘的で惑わされたりするんだけどね。

 今日はたまたまだよ。」


 先程の光景のせいで全く信じていないキャロルの髪をルシウスが指で梳く。


 リアムも横で頷いた。


「夜の海で出会うと本当に歌に惹き込まれるぞキャロル嬢。

 さっきは髪を振り乱していたから分からなかっただろうが彼女達は姿も美しいんだ。」


「…全くそうは見えないですね。」


「人間の女性だっていくら美人でも掴み合いしてる時は色々幻滅させられるだろ?

 そんなもんだ。」


 キャロルはハテと首を傾げる。


「私そう言えば掴み合いしている美人って見た事ないですね。」


「あーじゃあちょくちょく離宮を覗いて見たら良いよ。

 嫌って程見れるから。」


 ルシウスが思い出したのか疲れたように笑う。


 一体離宮で何が起こっていたのだろうか。


 まさかあの令嬢の鏡とも言えるアグネス嬢が掴み合いをしているのだろうか。


「アグネス嬢はないよ。

 フワリー嬢はたまに見るけどね。」


 またエスパーの如くルシウスに考えを読まれる。


 それよりもフワリー嬢は何をしているのだ。


 鼻っ柱を折りたいと言っていたがまさかの物理的な話だったのか。


 今度それに使えそうな魔道具をプレゼントしてあげねばなるまい。

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