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 料理に舌鼓を打っているとクリスも帰って来て一緒にテーブルを囲む。


「お久しぶりですわ。

 お姉様、お兄様。」


 後ろから声をかけられ振り返るとアンジェリカが立っていた。


 初対面の顔合わせでも一言も会話していない為お久しぶりという言葉が何となく腑に落ちない。


「…あぁ久しぶりだなアンジェリカ。」


 クリスが眉間に皺を寄せて答える。


 兄の様子を見る限り仲は良くないようだ。


 アンジェリカは気にならないのかキャロルの方に向き直る。


 ブロンドの髪に垂れ目がちな緑の目。


 手脚は白く華奢なのに出る所は出た庇護欲を唆る体。


 妹と言われても全く似ている部分がない。


 まあ血の繋がりがないので当然なのだが。


「お姉様、私とてもお姉様と1度お話がしたかったのです。」


「…はあ。

 それはどうも?」


 何と返せば良いか分からず疑問符混じりの返答になってしまう。


 何か話す事があっただろうか?


 キャロルの気の抜けた返事にアンジェリカの瞳が冷たく光る。


「…お姉様、殿下の御寵愛を受けていらっしゃるみたいですわね?」


「いや全くないけど。」


「お姉様にそのつもりがなくても周りの認識はそうなっておりますわ。」


「はあ。

 そうですか。」


 あの会話術をキチンと頭に叩き込んでくるべきだった。


 興味をそそられない話題だからかろくな返事が出来ない。


「お姉様。

 真剣に言わせて頂きますわ。

 辞退すべきではございません事?」


 アンジェリカの目が意地悪く弧を描く。


「…辞退出来る物ならとっくに辞退してます。」


 王命だから断れないだけなのだ。


 キャロルはワイングラスの中身を飲み干す。


「いえ、王命でしょうが辞退すべきなのですわ。」


「…一体何が言いたいんです?

 婚約者になりたいなら自分でなんとかすれば良いでしょう?

 私1人を蹴落とした所で貴方が選ばれるにはまだまだ蹴落とさなければならない方々がいらっしゃるのですからそちらに力を入れるべきでは?」


「お姉様。

 私は何もお姉様が嫌いだから、寵愛を受けているからという理由で辞退しろと申し上げているのではございませんわ。

 ワインスト家の一員として辞退すべきだと言っておりますの。」


「…は?」


 アンジェリカが勝ち誇ったように笑う。


「お姉様の噂は何度もお聞きしましたわ。


 …何でも母殺しの呪われた娘だとか。」

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