52

「あったあった。」


 レオンはファイルから白紙の休暇申請書を取り出す。


「えっと3ヵ月後の何日から?」


「5日からです。」


「ふむふむ…えっと申請理由は…キャロルは何て書いたんだ?」


「帰省シーズンですので適当に領地へ帰省の為、と。」


「あっそれいいな!」


 レオンも帰省の為、と書く。


「…宰相殿の御家族って王宮内にお住まいなんですよね?

 ご実家も王都にあると聞きましたが帰省ってしないんじゃないんですか?」


「あっ確かに!」


 レオンは少し悩んでキャロル・ワインストと一緒に、を付け加えた。


「よし、これならキャロルの申請も通りやすくなるし一石二鳥だろ!」


「宰相殿にバレたら泡吹かれると思いますけどね。」


 基本的に男女2人が女性側の実家への帰省の申請を出すのは、未婚の場合結婚の申し込みをしに行くと暗黙の了解があるのだ。


 勿論申請はほぼ通るが宰相からすれば寝耳に水だろう。


「まっ大丈夫大丈夫!

 最悪そうなっても楽しそうだし問題はない!

 愛情はなくても友情はあるし何とかなるだろ。」


「レオンが大丈夫なら別にかまいませんが。」


「そうかそうか。

 楽しい家庭にしようなキャロル!」


 よく分からないプロポーズを終え2人はお互い手元の書類を捲る。


 レオンも実は次期宰相としての仕事があったらしく毎日ここに仕事を持ち込むようになったのだ。


 片手で朝ご飯のマフィンを摘みながら書類にペンを走らせている。


「あっ私この後少し出かけて来ますね。」


「ん?

 どこ行くんだ?」


「廃材置き場です。」


「あっ俺も行きたい!

 この1枚終わらせるまでちょっと待って!」


「まあ私も着替えがあるのでかまいませんが。」


 その時窓がコツコツと音を立てた。


「あっ鳥きてるぞ。」


 レオンもこの1週間毎朝見た光景の為既に見慣れている。


 窓を開けていつも通り書類を受け取り、魔道具と添付書類を籠に乗せた。


「あっ待ってキャロル。

 これもついでに乗せてくれ。」


 レオンも先程書いた休暇申請書と急ぎの書類を2枚籠に入れる。


「よし!

 これで俺達の旅は安泰だな!」


 レオンは既に休暇に思いを巡らせているのかニマニマしながら書類にペンを走らせている。


 その締まらない顔を横目にキャロルは奥のバスルームに行き着替えを始めた。

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