気絶させてでも見張ってろ。

 あの場面を見た後、私の体はぐわんっと渦に引き込まれるような感覚を覚える。

 気づくと、最初の時の薄暗い空間の中にいた。


「えっ…?戻って…来た?」


 見てきた映像が衝撃的過ぎて、まだ頭の中が整理できていない。

 そんな中、パチパチと乾いた拍手が聞こえてきた。


「まだ正気のままなんだね。おめでとう、第三ゲームクリアだ」

「あなたはなんで御神楽さんの過去のことを知っているの?」

「そうだな、私から言えることはあのお方からこのデータをいただいたことくらいかな」


 あのお方…?

 もしかしなくても、皿木のことかもしれない。

 都市伝説だと思っていた、カミキエンタープライズはユグドラシルONLINEを利用してユーザーの『精神・記憶のデータ』を保管しているというのは本当だったのが、御神楽さんの過去を見たことで私は確信した。


「約束は約束だ。第三ゲームをクリアしたキミたちには雅楽様に会う権利をあげよう」


 ブルートがそう言うと、また次の部屋への扉が現れる。

 扉をくぐる。

 そこには苦しそうに膝をついている『稲荷・雅』…御神楽さんがいた。

 先程の映像を見た影響もあってか、今御神楽さんを見ると無性に泣きたくなった。

 でも、そんなことしている暇はない。

 私は御神楽さんに駆け寄った。


「御神楽さん!」

「あれ…?叶波…?どうやって?」

「御神楽さん…御神楽さん‼‼…よかったぁ~」

「えっ?ちょっ…?なんで泣いてるの?」

「あっ、ごめんなさい。つい…」


 いけない、こんなところで御神楽さんの邪魔をするわけにはいかない。


「慧架!清本!そこにいるか!?」


 穂村さんの声がする。

 

「穂村さん!ここにいます!」


 私は穂村さんに気付いてもらえるように手を振った。

 気づいたのか穂村さんと優紗はこちらに向かってきた。


「叶波…?瞼が少し腫れていらっしゃいますわ。泣いていらっしゃったのですか?いったい何が…?」


 優紗は私のことを心配してくれた。


「私は大丈夫…だから。それよりも、御神楽さんを手当てしてあげて?」


 私がそう言うと優紗は『エルフ・ロゼッタ』に変身する。


「わかりましたわ。『安らぎの花篭リラクゼーション・オブ・フィオーレ

 

 御神楽さんの体が花に包まれていく。

 花が消えたあと、御神楽さんの体にあった傷はきれいに消え去っていた。


「ありがと、優紗」

「…御神楽さんのさっきまでの戦い、見させていただきましたわ。どうやらいつもより動きが鈍いように見えますが…?」


 優紗がそう言うと、御神楽さんは表情を見られないように狐の仮面で顔を隠す。


「おい、隠すなよ。お前、もしかして記憶戻りかけてるんじゃないのか?」


 穂村さんは御神楽さんにそう訪ねる。

 しかし、御神楽さんは何も答えなかった。


「そこにいろ。いくら傷が言えたとは言え、そんな状態じゃあまともに戦えねえだろ?俺があの吸血鬼をぶっ倒す」

「ぼくは全然平気だよ。まだ戦える」


 立ち上がろうとする御神楽さん。


「桜宮、少しの間慧架をそこに休ませといてくれねえか?」


 穂村さんのその言葉に優紗は何かを察したのかはぁーっとため息をつきながらこう言った。


「もう、穂村さんったらわたくし使いが荒いですわね…。御神楽さん、恨むなら穂村さんを恨んでくださいまし」


 そう言って優紗は蔓状の鞭を御神楽さんに巻き付ける。

 前のランキングマッチの妖精の1、2位を決めるときにあの鞭を振り回していたのを覚えてる。

 当然のごとく、その時勝ったのは『エルフ・ロゼッタ』だ。


「いいか、俺が決着つけるからお前らは手ぇ出すなよ。あと慧架を見張っとけ。まだ戦おうとしたら気絶させてでも戦わせるな」


 穂村さんはギロリと睨む。


「うわ、マジじゃん…。何回も気絶したくないからさすがに大人しくしとくよ…」


 御神楽さんはすっかり戦う気を失くして大人しくすることにした。

 ついでに『稲荷・雅』の変身を解除した。


「『稲荷・雅』だとこの鞭引きちぎれちゃうからね。これで丁度いいでしょ」

「…お気遣いありがとうございます」


 御神楽さんのその言葉に少々屈辱そうな顔をする優紗だった。

 

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