潜入!月ケ丘図書館…そのまえに。

 目を開けると、私は『あの部屋』にたどり着く。

 どうにもこの感覚にはまだ慣れることはない。

 周りを見てみると、そこにいたのは穂村さんと優紗だ。

 私は3番目にここに来たようだ。

 御神楽さんの方はというと…、まだ来てはいなかった。


「御神楽さん、遅いですわね…」


 と優紗は御神楽さんを心配する。

 

「メッセージの返信はちゃんと来てたから来るとは思うのだけれど…」


 とどうやら御神楽さんはホロウさんに返信はしていたということがわかる。

 あれから連絡を取ることができなかったから、それを知れただけでも少し安心した。


「あの時の内容からすると随分と深刻そうだったからな…。家庭の事情とか、そんなんでもあるんだろ」


 穂村さん、なんだかんだ御神楽さんのこと心配しているんだな。


「清本?何俺を見てにニヤついてんだよ?」

「えっ!?そんな変な顔してましたか!?し、失礼しました!!!」


 私はスライング土下座を繰り出した。

 それをみた穂村さんは「そこまでやらんでいいわ!」と私を立ち上がらせた。


「叶波、膝を擦りむいてますわ。レディがすぐに傷を創ってはいけませんわよ?」


 優紗はそういって私の膝に絆創膏を貼ってくれた。

 女子力が高いなぁ…。


「ありがと、優紗」

「ふふっ、いえいえ」


なんてやり取りをしていると、扉が現れる。

ようやく御神楽さんが来たのだ。

夏なのにダボッとした長袖着てるけど、暑くないのかな…?


「遅せぇよ」


 と穂村さんは御神楽さんに言う。


「あっ、うん。ごめん…」


 一方御神楽さんはというと少し暗い顔でそう言った。

 いつもぼーっとしているような感じだったが、今の御神楽さんのそれはあまり生気を感じられなかった。

 穂村さんは何か言い返してくるのかと思ったのか、そんな反応が帰って来たので少し戸惑っていた。


「御神楽さん?」


 私がそう声をかけると御神楽さんは「うん?」と私に耳を傾けてくれた。


「大丈夫…ですか?色々と」


 ああ、言い方を間違えた。

 これじゃあ御神楽さんは「大丈夫」というに決まっている。


「うん、平気。大丈夫」


 ああ、やっぱり。


「いやどう見ても大丈夫じゃねえだろ?フラフラじゃねえか」

「そういえば、ですが…。御神楽さん、いいましたわよね?次、わたくしたちと会ったらちゃんと話すことがあるって」


 と優紗。

 それをきいて御神楽さんは「ああ、そうだった」と小さくつぶやいた。


「まだ、どう話せばいいのかはわかんないけど…。今、ぼくの身に起きていることはちゃんと話さなきゃと思って…」


 と言って御神楽さんは深呼吸をする。


「ぼくは、記憶喪失なんだ」


 と御神楽さんは言うと空気がずんと重くなる。


「ああ、さすがに全部忘れてるとかそう言うんじゃないよ。なんというか…ここ何年かの記憶がないっていえば正しいのかな?」

「お体の具合がよくなかったのはそれが原因…ですの?」


 と優紗は言う。


「それもあるかもだけど…、具合が悪くなったのは羽賀雪菜のあの小箱に触れたときに直接頭の中に大量の情報が流れてきた。それでなんか…ずっとパニック状態?ってやつになってたんだ」

「情報って…何かわかったことは?私が調べても何にもなかったのに…」


 とホロウさんはそう聞く。


「ごめん。思い出そうとすると頭が割れそうになるんだ」


 御神楽さんはそう言うとふらつく。

 思い出そうとしたが激しい頭痛が来たのかもしれない。

 立っていられず、その場で膝をついた。


「お前、なんでそんな大事なことずっと黙ってたんだよ…」

「ぼく自体、どうすればよかったかわからなかったからだよ。だから反省したよ、もっと早くに話せばよかったなって」

「…何はともあれ、そういうことね。御神楽慧架、あなたも何かしら雪菜とかかわりがあるのかもしれないわ。なにかあったらすぐ私のところに来なさい」


 とホロウさんは御神楽さんに対しそういう。

 すると優紗の方も…。


「わたくしも頼ってくださいね?いい病院を紹介しますわ。ご両親と相談して何なら治療費をわたくしが負担いたしますわ」


 と言った。


「わぁ、太っ腹だね。でもぼくの親と相談するのは無理だと思うよ」

「それはなぜですか?」

「だってぼく、家出してるもん」


 と御神楽さんがそう言うと優紗は顔を引きつらせ、穂村さんは「家出!?」と声に出して驚いていた。


「つか、なんで清本は驚かないんだよ!?」

「そうです、おかしいですわ!?」


 と私は2人に質問攻めにあう。


「えっと…すみません。先に御神楽さんから聞いてたんです…」

「こればっかりは本当にぼくが悪いんだ。だから、叶波をいじめないでほしいな」


 と私と御神楽さんが言うと優紗と穂村さんは少し腑に落ちてないようだが、引いてくれた。


「別にいじめたつもりはねえよ」

「しかし、家出とは…。生活に支障はないのですか?」

「ああ、それは別に問題はないよ。『ユグドラシルONLINE』で稼いだお金あるからね。ある程度は困らないよ」


 と御神楽さんは無気力にイエーイと言いながらピースサインをしながら言う。


「なんかその言い方腹立つな…」

「穂村さん、それはぐっと堪えなさいな…。でも御神楽さん、何か困りごとがありましたら相談してくださいね?大体は解決できると思いますから」


 という優紗の発言にその場にいた人全員が「おぉう…」と声を漏らした。

 さすがはユグドラシルONLINEの開発に関わっている桜宮財閥というべきか…スケールが違うなぁ。


「まあ立ち話もこの辺にしましょうか。もなにかしら仕掛けてくると厄介だし、早めに行ってもらえると助かるわ」


 時間は20時ちょっと前。

 目的地に着くにはちょうどいい時間帯かもしれない。


「目的地についても慎重に行動してね。まだ司書や警備員もいるかもしれないから」

「前のやつで思ったんだけどよ、直接その…古いサーバーってやつの中にはいけねえのかよ?」


 と穂村さんはホロウさんにそう質問する。

 今思えば…確かにそうだ。


「送りたいところなのだけれど…、なぜか特別なプロテクターがかかっていて送ることができないの。これはただ単に私の技術が足りないだけね、申し訳ないわ。私の方も私の開発者にバージョンアップを申請しているところなのよ」

「開発者…」


 私は思わずその言葉を口にする。

 そうか、ホロウさんは高性能なAIなんだもんね。

 開発者がいて当然か。

 まるで私たち人間と同じように接しているからAIなのだということをつい忘れてしまう。


「だから、気を付けてちょうだいね。監視カメラのハッキングはちゃんとやっておくから」


 とホロウさんは月ケ丘図書館のサーバーにつながる扉を出す。

 私たちはその扉を開け、目的地に向かった。


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