ふわふわり
さっそく、夏休みの予定が決まってしまった。
いい意味でも悪い意味でも。
さっきも言ったけど、本当に忘れられない夏休みになりそうな予感しかしない。
夏休みまであと一か月…。
来てほしいけど、来てほしくない。
なんだかもやもやした気持ちになっちゃう。
でも、モヤモヤしたって仕方がないよね。
私たちがやっているのは人助け。
人のためになっているんだったら光栄なことこの上ない!
そう思いながら私は布団の中に入り、スヤスヤと眠った。
ふわふわしている、気持ちがいい。
私はこれがすぐに夢なのだということに気付く。
目を開けるとそこは空?…天井が柔らかい桃色で地面が綿毛のようにふわふわとした空間の中に私はいた。
おかしいよね、夢の中なのに目を開けるって。
だけど、不思議なことにこの夢の中で私の頭が醒めているのがわかる。
その場にいるのは私だけのようだ。
私は不安に思いながらもそのふわふわとした空間を歩いていく。
「こんにちは」
ふいに後ろから声をかけられたので私は体をビクッと震わせる。
「あらごめんなさい。驚かせるつもりはなかったの」
私の後ろにいたのは…なんと羽賀雪菜さんだった。
「せ、雪菜さん!?」
と咄嗟に炎真さんに連絡をと思ったのだが、これは夢の中だ。
夢なら何でもありなのだということを思い出した。
「あっ、私のこと知ってくれてるのね。ありがとう、清本叶波ちゃん」
「はぇ?私のこと、知ってるんですか?」
「ええ」と夢の中の雪菜さんは私に微笑みかける。
画像でしか見たことないけど、雪菜さんもきれいな人だよなぁ…。
っていうか私の周り、美人多すぎない?
私、本当に同じ女性なの?って思えるくらい…。
ちょっと自信無くしそう…。
「暗い顔してどうしたの?…あっ、急にこんなところに来て不安よね?」
どうやら自信のなさが顔に出てしまったようだ。
くだらないことでこんな顔になっただなんて言えないや。
「そう…ですね。あのここはどこなんでしょう?あっ、夢の中だってことはわかってるんですけど…」
と私が言うと雪菜さんは…。
「私も実はよくわからないんだよねぇ…」
と言われ、私はガクッとなってしまった。
「でもね、叶波ちゃんよりも長くここにいるってことはわかるの。そしてなぜか、あなたのことを知っていた。ずっと待ってたのね、きっと」
「私を…待ってた?」
と私が聞くと雪菜さんはうなずいて「なんでかわかんないんだけどね」というのでまた私はガクッとなった。
「あなたたちが私の精神データのかけらを探し始めた影響なのよ、この夢は。そしてこれもデータのかけらのほんのひとつにすぎない。たまたま叶波ちゃんにこうやって反応しちゃったのかも」
「反応したからには…なにか伝えたいことがあるということ…?」
「とくにないよ」
「はぇっ!?」
突拍子もないこと言われたので私は変な声で変な驚き方をしてしまった。
「っていうと嘘になっちゃうね。ちょっと大げさすぎた」
「冗談止めてくださいよぉ…」
私がそう言うと雪菜さんはてへっとした。
雪菜さん、案外お調子者なのでは…?
それにこの感じ、誰かに似ているような…?
「助けてほしい人がいるの」
「雪菜さん自身ではなく?うーん…もしかしてそれって穂村さんのことですか?」
そう聞くと雪菜さんはちがうと首を横に振る。
「炎真くんは大丈夫だよ。まだ心の傷は癒えていないかもしれないけど、彼は強い子だから。現に今、立ち上がろうと頑張ってるのを私…知ってるからね」
と雪菜さんは少し照れながら言う。
あ、甘酸っぱい…。
「じゃあ一体だれなんですか?…ホロウさん?それかホロウさんの作り手さん?」
「…ホロウさん?ああ、あのAIのことね。あの子を作った人もなんとか自力で解決はできると思うわ。私がたすけてほしい人は『ミクルちゃん』よ」
「ミクルさんですか…?」
「そう、ミクルちゃん。あの子、不器用だからなかなか自分のことはなさないだろうけど…。だからこそ、あなたたちが心の支えになってほしいの」
「あの…雪菜さんはいいんですか?」
ふと私はそう言ってしまった。
「うん?何が?」
「雪菜さんはあの…その…もう一度穂村さんと話したいとかそういうの思ったりしないんですか?」
「そうね、もう一度話したいわ。でも、誰かを犠牲にするくらいだったらこのままの方がいい。私ね、自分の精神の波長があう人が誰かもう知ってるの」
「それがさっき言ってたミクルさんですか?」
「そうなの。会った回数は少ないけど、私の友達には変わりないわ。あの子はまだ外の世界を知りたいはずなの。だから、お願い助けてあげて」
雪菜さんは悲しそうな顔をする。
そしてそう伝えてこの夢の世界はぐにゃりと歪み始めた。
ああ、目が覚めるのか、私はそう気づくことができた。
目が覚めて、早々私はこう思った。
ミクルさんって一体誰!?
しかも雪菜さん本人(正確にはデータのかけらだけど…)も会った回数少ないとか言ってたよね!?
証拠も何もない…。
あっそうだ、夢のこと…話したほうがいいかな?
メルヘンでデンパなやつだって思われたらどうしよう…。
物は試しでホロウさんに連絡の方がいいのかな?
それともグループチャットの方がいいかな?
あわあわと考えていると端末にメッセージが来ているのに気づく。
こんな朝早くから誰だ…?
グループチャットにそれは着てて、送信相手は御神楽さんからだ。
御神楽さんからメッセージなんて珍しいなと思いながら私はそれを開いた。
『みんな朝早くゴメンね。昨日からなんか変わりない?』
という内容だった。
まだ誰もグループチャットには入っていない。
どうやら私が一番乗りのようだ。
『私はぜんぜん大丈夫です。『なんか変わりない?』ってどういうことですか?』
私がそう送ると今度は別の…御神楽さん個人の方からメッセージがきた。
『叶波が先に見ててくれてよかった。ちょうど二人で話したいことがあってさ。さすがに朝早くじゃ申し訳ないから、そうだな…キミの都合のいい時間に合わせよう。何時くらいなら空いてるかな?』
今日は部活あるのかな…?
さすがにありそうだな、最近やってないこと多かったからさすがに先生たちに目を付けられちゃう。
と言ってもうちの部活時間ってそもそもそんな長くないしなあ…。
長いときは美術部員の子と食っちゃべったりで最後までっていうのがほとんどだし。
最近は美術部忙しいから1時間くらいで済むこともある。
時間が結構バラバラなのだ。
そうこう考えていると御神楽さんからまたメッセージがきた。
『今日の予定がわからなかったらいつでもいいよ。今いきなりでも大丈夫だし、今日の夜遅くまででも大丈夫。ぼくのマイルーム、いつでも開けておくからさ。このパスワードいれたら入れる。自分勝手で悪いけど、今日じゃなきゃダメなんだ。それじゃあまた会おう』
『はい、わかりました。ではまた後で』
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