第64話
団長がカインと話していると沈んだ顔をしたシーアがやって来た。
「団長……。セントラルから軍の方々が……ってカイン君?」
シーアはまるで幽霊でもみたいな顔になる。
驚きすぎて肩の力が抜けていた。
「よお」
カインはいつも通りに手を挙げて答えた。
するとシーアが泣きながらカインに抱き付いた。
「よかった……。死んじゃったかと思ったんだよ?」
突然のことに見ている僕の方が恥ずかしくなる。
カインは優しげな笑みを浮かべてシーアの頭にぽんと手を乗せた。
「俺を殺せるのはこの世で俺だけだ。世の中の雑魚共には荷が重すぎんだよ。分かったら離れろ。肋骨折れてんだ」
「あ、ごめんなさい。……あれ? この子は?」
シーアはカインに抱かれ、自分の胸に苦しそうにするリルを抱き上げた。
「ジロー。雄だ」
リルはわんわんと抗議していた。
「飼うの? 可愛いー。いいなあ。うちもペット欲しいけどマーちゃんがアレルギーだからダメなんだよね」
シーアは愛くるしい笑顔でリルをよしよしする。
リルはくすぐったそうにしていた。
それを見たフレアが眉をひそめて口を開く。
「ああー。次はあたしがわんこを抱っこする番なのにー」
リルを可愛がるシーアを見てうずうずしていたフレアから不満が爆発した。
シーアは名残惜しそうに「しょうがないなー。はい」と言ってリルを渡す。
フレアは嬉しそうにリルを撫で回した。
「わあー♪ もふもふでふわふわでさらさらでむにむにするー」
喜ぶフレアだけどリルは鬱陶しそうだ。
あからさまに睨んでる。だけどフレアが気にする様子はない。
だけどリルもフレアを噛んだりはしなかった。
さっきまで戦ってたのにもう仲良しなのはすごい。
これが野生の力なのかな。
「アルフー。うちも犬飼おーよ」
「飼いません。僕としてはそれ以上のを二頭も飼ってるつもりなんだから」
「えー。なに言ってるか分かんない。ほら、アルフも撫でてみて。そしたら飼いたくなるからー」
フレアはリルを降ろしてお腹をさすってる。
「ほら早くー。わんこも良いって言ってるし」
「言ってないでしょ。もう、しょうがないなー」
僕は溜息をつきながらしゃがんでリルのお腹を触った。
たしかにさらさらしている。
「ね? 気持ちいいでしょ? あたしも飼ーいーたーいぃー!」
「でも散歩とかしないとだめだし。エサもあげないと。じゃあフレアのお肉分けてあげる?」
「それはムリ。そんなことするくらいならアルフを食べさせる」
フレアは不機嫌そうに即答する。
なんで?
僕は肉より下なの?
それから僕らが飼う飼わないの問答をしていると後ろで軍隊の人がやって来て団長と話していた。
法務を兼任しているという背が高くて髪の長い男の人が報告する。
「小隊長のドルトン・メントだ。ドレッドバードに偵察させたところ、帝国軍は撤退を始めたらしい。おそらく報告にあったフェンリルを倒されたのが効いたのだろう。報告を求める。誰が倒した?」
「彼です。カイン・ネロ・アルバレス」
団長が紹介するとドルトンさんはカインを見てほうと感心していた。
「若いな。その歳でフェンリルを倒すか」
カインはばつが悪そうに僕を見た。
「……悪いですけど俺じゃありません。あいつはその……、石に躓いて死にました」
ドルトンさんはふっと笑った。
「謙虚さもある。気に入った。聞いたところ優秀らしいな。その才能を研鑽しろ。そうすればその内中央から声もかかる」
「……どうも」
さすがカインだ。もう目を付けられてる。
その割に気が乗ってないみたいだけど。
僕らがフェンリルを倒したとなると命令違反に加えてフレアやしずくの説明を軍の人にしないといけなくなる。
だからカインが倒したってことにしようと相談していたんだけど、どうやらそれが気に入らないみたいだ。
手柄を横取りしたみたいで気分がよくないんだろう。
僕はやっぱりカインはすごいなーと思いながらリルのお腹を撫でていた。
ドルトンさんが団長と共に去ろうとするとカインがリルに言う。
「おいジロー。いつまで敵に腹見せてんだ。俺らも行くぞ」
それにリルが怒った。
抗議の為に吠えるのをやめ、人間の姿になって怒る。
「リルの名前はリルです。ジローなどではありません。それに雄でもありません。その証拠に」
リルはあろうことか寝転んだまま纏っていた布を下からめくりあげ、下半身を見せた。
「ほら。リルにはなにもついてません」
さっきまでお腹を撫でていた僕の手は人の姿になったリルの胸を揉んでいた。
そして目の前には露わになったリルの体が……。
辺りがしーんとする。
僕の全身から汗がだらだらと流れた。
凍り付く空気の中でリルだけが首を傾げて不思議がっていた。
するとシーアが僕を指差した。
「おまわりさん! ロリコンがロリを襲ってます!」
「確認した。現行犯として逮捕する」
ドルトンさんは淡々とそう告げ、僕の両手に手錠をかけた。
「………………………へ?」
冷たい感触が両手首から伝わるとドルトンさんが警告する。
「貴様には黙秘権がある。供述は裁判によって不利な証拠として用いられる可能性がある。貴様には弁護士を呼ぶ権利がある。経済力がない場合は公選弁護人が付く権利がある。だがしかし、ロリコンに人権はない!」
気付くと僕は囚われ、レネップの訓練所にある牢に入れられていた。
ガシャンと鍵が閉められ、ようやく僕は展開の早さに追いついた。
「……え? ええええええええええええええええええぇぇぇぇぇぇっ!? 無罪ですって!」
「罪人は皆そう言うのだ。罪状はその内言い渡す。さらばだ。ロリコン村人」
ドルトンさんはそう言うと重そうなドアを閉め、去って行った。
僕は檻の中でがっくりとうな垂れた。まったく、あの二人が来てからろくなことがない。
どうしてこんなことになるんだ。
これじゃあ折角なった憲兵をクビになっちゃう。
僕は頭を抱え、大きな溜息をついた。
だけど同時に安堵していた。
カインもリルも無事なんだから。
村人の僕でもどうにか、皆を救うことはできたらしい。
少しは成長したのかな?
僕はとほほと思いながらも、疲れた体を横にした。
かくして僕はしばし眠りについた。
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