第59話

 カインに言われた通り腰で打った拳によってリアスの体がくの字に曲がる。

「かはっ……!」

 リアスは小さな呻き声をあげてその場に倒れた。

 それと同時にフェンリルが苦しみ、暴れ出す。

「グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォッッ!」

 無造作に放たれる魔力が地面に当たるといくつもの黒く太い柱が昇った。

 まるで黙示録の世界だ。

 僕は拳の痛みに耐えながら叫んだ。

「しずくっ!」

 すると銀翼のグリフォンが美しい翼を広げて大空に君臨した。

「この一帯の全魔力を封じるわ。『ヴァルハラジェイル』」

 しずくが行使した『ヴァルハラジェイル』によって巨大な神殿が天空に現われた。

 宙を舞うグリフォンの羽が光の十字架へと変化していく。

 そしてそれは次々と降り注ぎフェンリルが放った魔力の柱を封じていった。

 それを見たフェンリルがしずくへと口を開く。

 今まで以上に巨大で禍々しい魔力が蓄えられていく。

 だけど魔力が放たれる直前にに光の十字架が突き刺さった。

「残念だけどそれはならないわ」

 しずくは十字架は幾度もそれを繰り返し、遂にはフェンリルの動きを完全に止める。

 するとフレアが嬉しそうに炎を蓄える。

「チャーンス! よーし! やっちゃうぞー!」

「あなたもよ」

 しずくの十字架は容赦なくフレアを封じた。

 さっきまで暴れてまわっていた二つの震災が一歩も動けず封殺される。

 これが最強の魔力を持つ銀のグリフォンの力――――

 口を十字架で塞がれたフレアはしずくに抗議する。

「もごもがもごごごご?」(どうしてあたしまで?)

「ちょっとよく分からないわね」

 それよりとしずくはフェンリルの前に降り立つ。

 すると制御を失って暴走したフェンリルが牙を剥き、拘束を破ってしずくに襲いかかる。

「グオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォッッッ!」

「疲れたでしょう? あの子の相手をしたのだもの。今楽にしてあげるからじっとして。緊縛せよ。『アルテミス』」

 光の十字架が姿を変え、巨大な矢となり、それが四方八方からフェンリルを貫いた。

「ガアアアアアァァァッッ!」

 四肢を貫かれたフェンリルは今度こそ完全にその動きを止められる。

 それに加え、上空からとんでもないサイズの魔方陣が降りてきた。

 魔方陣は一瞬動きを止め、次には収縮し、そこから視界を覆う程の眩い光が放たれフェンリルを覆った。

 まるで暗い闇が月光によって焼き尽くされていくようだった。

 光の雨がやむと、そこには一人の少女が横たわっていた。

 僕は彼女の元までゆっくりと歩き、その首にそっと首輪を付けた。

「…………ごめんね」

 すると金の首輪は音を立てて砕け、少女の瞑った瞼から涙が一滴流れた。

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