あなたが落としたのはなんですか?

第55話

 僕の足下には広大な森が広がっていた。

 風の音が聞こえる。空は綺麗だし、森の木々はくっきりと遠くまで見えた。

 きっと空を飛ぶってこんな気持ちなんだろうな。

 こんな状況なのに僕はぽかんとして、呑気にそんなことを思っていた。

 魔術か……。予想もしてなかった……。

 でも上位の魔物使いは魔術も使いこなすって団長も言ってたし。

 僕は魔力がないからなぁ……。

 僕はリアスとの才能に雲泥の差を感じながら鳥獣モンスター達と一緒に空を横切っていた。

 だけどリアスの魔術も次第に威力を失い、遂には重力に負けた。

 高度二千メートルから体が地面に落ち出して、ようやく僕は我に返った。

「………………………これ、……死ぬやつだ……」

 そう呟いた瞬間、全身を恐怖が包んだ。

 鳥肌が立ち、全身が凍えたような感覚になる。

「……う、うわあああああああああああああああああぁぁぁぁッッッ!」

 絶叫と共に僕の体が地面目がけて落下していく。

 地面はどんどん近くなっていく。

「アルフ様ぁっ! つかまって下さい!」

 僕の上でウィスプがモンスターの姿になって呼んだ。

 そうか。ウィスプなら浮けるから!

 僕は必死になって姿勢を変え、ウィスプの体を抱きしめた。

「よし。これで……ってうわああああぁぁっ! 落ちてる! まだ落ちてるよ!」

「ウィスプは浮くだけですから人を乗せることはできないんです!」

 ダメじゃん! 

 少しは落下速度が落ちたけどこのままなら二人共地面にぶつかって粉々だ。

 せめてウィスプだけでもと僕は手を放そうとした。

「ダメです! 私から手を放したら勢いが殺せません。そのままぎゅっと掴んでて下さい!」

「う、うん!」

 なにか案があるらしく、僕は言われた通りにウィスプにしがみつく。

 するとウィスプは吐息を履いた。

「ひゃん! そこは……ダメなとこです……」

「ご、ごめん! 全部光だからどこがどれなのか分からないくて……」

「ひゃうんっ! そ、そこも……。と、とにかく私に任せて下さい!」

 そう言うとウィスプは視線を前に向けた。

 大きな湖が見える。フレア達と出会った女神様の湖だ。

 そうか。あそこに落ちればなんとかなるかも。

 だけど距離が足りない。

「やっぱりウィスプだけでも!」

「いやです! アルフ様を見殺しにするなんてできません!」

 ウィスプは自分の後ろに魔方陣を作り出した。

 そこに先程から練っていたらしい魔力を注ぐ。

「届いて! 『ショック』」

 ウィスプは後方に魔法『ショック』を放つ。

 するとその反動で僕らの体が横に移動した。

 そうか。魔術で飛ばされたなら魔法で飛べばいいんだ。

 足下がないここなら勢いは全て後方へと向う。

 それでも湖まではまだ足りない。

「まだ届かない。ウィスプ! もっと撃って!」

「はい!」

 連発される『ショック』僕らの体は落下しながらも確かに湖へと向っていた。

 あと少し。

 だけどもう時間がない。

 僕とウィスプの声が重なる。

「届けええええええええええええええええええええぇぇぇぇぇッッッ!」

 地面にぶつかる瞬間ウィスプが放った『ショック』は僕らをなんとか湖へと運んだ。

「やったぁって、えええええええええええぇぇぇぇぇぇっ!?」

 喜んだのも束の間で、湖から黒い円が出てきて僕らはそれにばくんと飲み込まれた。

 まるで地面が消えたようにいつまでも落下していく。

 一体僕らはどこに行くんだ!?

 その不安の答えは闇の中に現われた光によって出された。

 光に包まれると急に重力を感じ、まるでこの世とは違う理の中を泳ぐような不思議な感覚を覚えた。

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