第44話

 揺れのせいで目を覚ました。

 ゆっくり目を開けていくと、視界いっぱいに大きな背中が見える。

 それはカインのパートナー、メタルゴーレムのレム君の背中だった。

「………………起きた?」

 ぼそりと尋ねるレム君に僕は慌てて頷いた。

「ご、ごめん! あれ? なんで?」

「……………モンスターの魔法」

「あ、そうなんだ」

「…………それを金色の子が蹴っ飛ばして君に当たった」

「……そうなんだ」

 僕の隣にいるフレアは悪びれた様子もなく、楽しそうにスキップしてる。

 フレアは僕が起きた事に気づくと手を振った。

「アルフおはよー。もー、寝ちゃだめだよー」

「……おはよう」

 僕は大きな溜息をついてからハッとした。

 またカインに怒られる。そう思ってカインを見ると、団長と話し合っていた。

 僕がホッとすると、レム君はまたぼそりと言った。

「………………きっとカインが君に色々言うのは、不安なんだと思う」

「え? 不安?」

 僕は驚いて目を丸くする。

 カインが僕に不安なんて感情を抱く?

 どういうことだろう?

 レム君は続けた。

「………………君が本気なのか、どうか。信頼していいのか、どうか」

「それってどういう――――」

「やっと起きやがったかこの糞雑魚野郎!」

 僕が目を覚ましたことに気付いたカインがずかずかとやって来た。

 僕が慌ててレム君の背中から降りると、カインが僕の頭を拳骨で殴った。

「てめえ! 足引っ張んなって言っただろうがっ! マジで殺すぞ!」

「ううぅ……。ごめん……」

 僕はじんじんと痛む頬をおさえ、涙目で謝る。

 実践中に自分のモンスターのせいで気絶したなんてのは前代未聞だろう。

 完全に指導不足だ。言い訳もできない。

 すると団長がやってきてカインをなだめる。

「それくらいにしろ。もうすぐドミネク殿が言っていたエリアだ。敵がいるかもしれないのに仲間割れなんてするんじゃない」

「分かってますよ! でもこいつがいつまで経っても腑抜けてやがるから……!」

 カインが僕をギロリと睨む。

 僕は怖くて震えるしかなかった。

 カインは舌打ちして呟いた。

「……お前さ、マジでなんで来たんだよ」

 僕はただただ俯いた。悔しさよりも情けなさが上回って言い返す言葉が浮ばない。

 心配したウィスプがぷかぷかと浮いてこちらへやって来る。

「大丈夫ですか? 今回復しますからね?」

「……いや、いいよ。油断してた僕が悪いんだ」

 僕がかぶりを振るとウィスプは寂しそうに「そうですか……」としぼんだ。

 その横でフレアが腰に手を当ててうんうんと頷く。

「油断はダメだよねー」

 もはやつっこむ気力もない。

「こんなところでもぼけっとできるのはある意味才能ね」

 しずくも辛辣な評価をしてくる。

 僕がガックリとうな垂れた。

「……善処します」

 ただでさえ少ない自信が萎んでいく。

 だけどこのままじゃだめだ。やる気を出さないといけない。

 溜息はつけば、隊の士気まで下がる。

 僕は無理矢理顔を上げ、山頂を見上げた。

 その時だった。

「おいお主! 大丈夫か!」

 シールドジャイアントが大きな野太い声をあげた。

 声の緊急性に押されてそちらを見ると、岩の隙間で誰かが倒れていた。

 その人の腕にはドミネクさんと同じ紋章が付けられている。

「…………………仲間……か……?」

 軍人と思われる人が小さく呻いた。

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