第43話
子供の頃から僕は泣き虫だった。
体は小さいし、これといった特技もなく、引っ込み思案で誰かに自分を見せることを嫌い、人の後ろに隠れて生きてきた。
それができなくなったのは両親が戦争で死んでからだ。
一人は寂しくて、心細くて、でも誰かを頼ったりするのが嫌だった僕は村の端っこにあった祖父の小屋に逃げ込み、そこでお爺さんとの生活を始めた。
だけどそのお爺さんも病気で亡くなり、僕はまた一人になった。
畑を耕し、野菜を作り、一人で食べて、一人で寝る。
そんな生きているか死んでいるか分からない生活の中、ウィスプと出会った。
他のモンスターに虐められ、人里にまで逃げてきたウィスプは僕そのもので、他人事に思えなかった。
「森が嫌ならここに住めばいいよ」
そう言って僕らは生活を共にし、いつしかパートナーの契りを結んだ。
きっと寂しかったんだと思う。一人でいるのが。
いや、もしかしたら弱い僕を肯定してくれる存在が欲しかったのかもしれない。
誰かに隠れることが好きな僕にとって、リーダーシップのあるカインは唯一の友達と言えた。
「オレは憲兵になる。それも最強の憲兵にだ」
幼馴染みのカインはことあるごとにそう言っていた。
カインの家は貧しくて、だから収入が安定する憲兵を目指していた。
「お前は? ずっと畑耕して生きるのか?」
カインは馬鹿にしたように尋ねた。
あの時、僕はなんて答えたんだろう?
そうだよ、かな?
分からない、だったかもしれない。
いや、確か……、
「ぼ、僕も憲兵になる。僕は最強の魔物使いになるんだ!」
そうか。そんなことを言ったんだ。
普段なら人に自分の夢なんて語らないけど、変なところで負けず嫌いな僕はついつい張り合ってそう言った。
あの時は自分自身に驚いた。そんな夢があったなんて。
だけどもう誰かに馬鹿にされて生きるのはいやだった。
胸を張って強く生きたかった。
それを聞いたカインは少し驚いて、それから嬉しそうに笑った。
「だよな。やっぱり夢はでかくないと。今がどんな状況だって自分が自分を諦めたらそこで人生は終わりだ。胸張って生きられない人生なんていらねえよ」
カインの言うことは格好良くて、僕もそんな強い人生を送りたかった。
それから僕は憲兵を目指し、密かに訓練なんかもやっていた。
でも、そんな決意は試験で最弱の烙印を押されると次第に埋もれ、僕はまた村の端っこで畑を耕すだけの村人に戻った。
憲兵になったカインはそんな僕に苛立って聞いた。
「お前、諦めんのかよ?」
これ以上傷つきたくない僕は苦笑いして答えた。
「……うん。やっぱり僕はただの村人だったよ」
それから、カインが僕に話しかけることはなくなった。
あの時カインは僕を自分の人生から切り捨てたんだ。
いや、もしかしたらそれをしたのは僕の方かもしれない。
僕の心は摩耗していて、それを誰にも触れさせたくなかった。
そして月日が経った僕の心は弱くなっていた。
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