第42話

 山に登ってみると予想以上に険しかった。岩が多いので少し移動するだけでも疲れる。

 それに加えてどんどん日が落ちていく。暗くなると小さな茂みでさえも怖くなった。

 生えていた木が少しずつ低くなり、落ちている岩が僕より大きくなる。

 団長やカインはまだしも、ミミネもかなりの体力がある。

 モンスター達はもっと平然としていた。

 ウィスプは浮いているので疲れない。

 しずくも途中から魔法で移動している。

 フレアは体力が有り余っているらしく、スキップしたり、木の上を走ったりしている。それでいて上からは決して見えないように配慮していた。

 疲れ切っているのは僕だけだ。皆についていくだけで精一杯だった。

 服の中で汗が流れる。何度も水分を補給しているのに喉が渇いた。備品を入れているリュックがやけに重く感じる。足の裏が痛かった。

 体力的にはそれほど劣ってないはずだけど、恐怖のせいで疲れが倍増していた。

 こういう時、精神力の弱さが露呈する。

 そう言えば気持ちは訓練だけじゃ育たないって団長は言ってたな。一度の本番が憲兵を男にするとも。

 僕は男になれるんだろうか。

 それにしても山は怖い。どこに敵が潜んでいるか分からないし、モンスターに襲われるかもしれない。

 ほら。あそこの茂みなんて今にもなにか飛び出して来そうだし。

 すると僕の考えを読んだみたいにガサッと音がした。

「うわっ!」

 僕は体を震わせて叫んだ。皆が一斉に振り向く。

 すると茂みからカンパクバッタが飛び出し、ぴょんぴょんとどこかに行ってしまった。

「どうした? 敵か?」

 団長は身構えて尋ねる。

「…………すいません。バッタが……」

 それを聞いてカインが舌打ちした。

「おいこらてめえ雑魚アルフ! ふざけてんのか!」

「ううぅ……。ごめん……」

 僕が落ち込んでるとフレアがやってきた。

「アルフ。バッタどこ? こっそり教えて」

「……あとでね」

 フレアは嬉しそうにうんと頷く。

 いつ敵に襲われるか分からないのに相変わらず楽しそうだ。

 大きな溜息が出た。心も体もどっと疲れた。

 それを見てカインが凄い形相で近づいてくる。そして僕の胸ぐらを掴んだ。

 え? 僕またなんかした?

「仲間といる時に溜息ついてんじゃねえよ。士気が下がるだろうが。殺すぞ」

「ご、ごめん………」

 自分の事で精一杯な僕はそんなこと考えもしなかった。

 カインは舌打ちして僕を突き放す。そして僕に哀れみの目で見下ろした。

「お前さ、いつまでそんなお前でいるつもりなんだ?」

「……え?」

 僕が驚いていると、カインはしらけた顔になった。

「もういい。俺はさ。とうの昔にお前のこと諦めてるから。だから足だけは引っ張るな。野垂れ死ぬにしても勝手に死んでろ」

 そう言い捨てるとカインは先頭の方に戻っていった。

 僕は茫然とした。

 どういうことだろう? カインが僕のことを諦めてるって。

 それって、つまり諦める前は……。

「モンスターだっ! 散開!」

 前方から団長の声が聞こえて僕は顔をあげた。

 そこには動く木のモンスター、デビルツリーが数体出現した。

 木の幹に悪魔のような目と巨大な口が開かれている。植物系モンスターの中でも中位に位置する強敵だ。

 それを見てカインが指示を出す。

「ミミネは俺の後ろにいろ! 糞雑魚は団長のだ!」

「おっけー」

「う、うん!」

 すぐさま戦闘態勢に入る。先陣を切るのはカインのメタルゴーレムと団長のシールドジャイアントだ。

 だけどシールドジャイアントは人の姿を維持している。

 あまりにも大きすぎる故に敵から発見される可能性があるからだ。ドミネクさんを襲った敵が判明しない限りは人のままでいくと決めていた。

 それでもその力は圧倒的だった。

 背中に備え付けられている二枚の盾を装備すると、デビルツリーに殴りかかる。

「木偶は大人しくしとれい!」

 強力な右の一発で一体がはじき飛ばされる。

 それが左右で二発。

 すぐに前は開いた。

「邪魔なんだよ!」

 カインのゴーレムも一体と組み合い、押し勝っている。

 その後ろからミミネのカーバンクルが攻撃する。

「カーたん! 『スラッシュエッジ』を左のに撃つよ!」

 ミミネの指示でカーバンクルは『くー』と鳴いて魔法を放った。

 魔力を鋭く尖らせた刃がデビルツリーの頭部を削り取ると、不気味な呻き声が上がった。

 僕はというと何を言っても邪魔になりそうで言葉が出なかった。

 するとフレアがうずうずしながら僕の方を向く。

「あたしも草刈り行っていい?」

「…………いや、もしかしたら後ろから襲われるかもしれない。フレアは僕らを守って。ウィスプはジャイアントの回復。しずくは他にいるかもしれない敵を警戒してほしい」

「ええー。仕方ないなー」

 フレアは不満そうだけど、ウィスプとしずくは納得してくれた。

 割としっかりとした指示を出せたと思う。

 押されてるわけじゃないんだ。

 最後尾の僕は部隊全体の隙をなくすことに注力すればいい。

 大丈夫。それくらいならちゃんとできる。

 それでもさっきカインに言われた言葉がまだ胸の奥で突き刺さっていた。

『お前さ、いつまでそんなお前でいるつもりなんだ?』

 そんな僕……。弱いままの僕のことかな……。

 だとしたら僕だって少しは強くなったつもりだ。

 訓練だってしたし、こうやって指示も出せてる。

 じゃあ、カインはなんであんなこと言ったんだろう……。

「危ない!」

 そう誰かが叫んだ気がする。

 次の瞬間、頭になにかが当たり、鈍い音がした。

 痛みを感じると共に、僕は意識は失った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます