第58話 chasing "shadow"「追跡」
御門は10分ほどで300人以上の腕輪持ちを殺しながらここまで来ている。
御門がやってきた島の子供を教育する地は街側とうって変わって農業と畜産業が学校の子供を労働力として行われていて、その他、子供が教育係の監視と指導のもと過ごす寮が数多く立っている。
そのはずが、御門がたどり着いた時には、寮がほぼ焼け落ち、農業地域はもはや再現不可能なほどに燃え尽くされていた。
300人の子供の保護は成功し、用意した避難所に集まり防戦を行いながら避難の道筋を立てるという方針になっている。
源家には本来1500人以上の子供があるはずだ。単純な引き算で1200人が行方不明になったということ。源家の守備隊には100人程度の〈人〉の戦闘員が数多くいたにも関わらず半分以上殺されたという。
襲撃者がいかに高い戦闘力を有しているかが明らかになっている状況だ。
「行動が速い。まだ15分しか経ってないのに。連中、相当ここを知り尽くして、襲撃、占領、誘拐を最も効率の良い方法をあらかじめ準備していたみたいだな」
疑問も残りっるが今の御門が行うことは、報告にあった300人を逃がすための活路を拓くこと。これが最大に優先される。
「おいで、ヒート、ブリル」
ペットのように呼び出した2体は式神。1体は身に炎を纏う巨大な狛犬型の自動式神。もう1体は伝説上の存在であるはずの麒麟の姿を参考に、氷の守護者として生み出された、新たなる生物型の式神。
「前を切り開きなさい。犠牲は問わない」
御門の命令を受けて、2体の式神は真っ先に御門が向かうべき前へ突進していった。そして道を阻む襲撃者を御門有也の式神にふさわしい圧倒的力で葬っていく。
ヒートと呼ばれた炎の式神は、圧倒的火力の火炎放射で道行く襲撃者を一片の骨も残さず消し、ブリルと名付けられた氷の式神はヒートが打ち漏らした、襲撃者を丁寧に氷漬けにして無力化していく。
この2体が戦場に現れただけで、防衛線を突破されて押されていた源家戦闘員が一気に反攻に転じ始める。御門の持つ式神はそれほどに、式神でありながら、自軍を勝利に導く凄まじい戦力なのだ。
「御門ぉおお!」
押され始めた襲撃者は、この場を制圧し始めた式神の使い手である御門に一斉に襲い掛かる。
ある者は巨大な光の槍を創造し、御門に投げつけた。ある者は自分の持てる最大数の一斉射撃を御門に向けた。その他の襲撃者も自分が持ちうる、御門を殺しうる火力を浴びせようと、腕輪によって増えたテイル粒子数をふんだんに消費して攻撃を放つ。
「消えろ」
御門は3文字、ただ呟く。和幸の時は、愉快な気分だったので、呪術師らしい詠唱を入れた戦い方で相手をしたが、本来御門には、よほどの攻撃でもない限り詠唱で威力を上げる必要はない。
巨人を模した式神が宙に現れ、その腕から神々しいともいえる炎が噴き出し、辺り一帯を炎によって流し清める紅蓮の大津波を発生させた。その津波は自身に向けられたすべてを焼失させ、自分に攻撃を始めた襲撃者を祓い消していく。
しかし御門は不満げに、今の敵を評価した。
「これでは弱すぎる。莉愛は、もっと凄まじく強くなったぞ?」
そして御門は再び走りだし、その頭では、抱いた違和感に対する思考を始める。
(精鋭はこっちに回していないのか。それともたまたまこいつらが弱いだけか……?)
そこで御門は止まることになった。一瞬で御門は理解する。目の前に新たに現れた3名の襲撃者。
(まだ強い奴はいるようだ。彼らはは手間取りそうだ……!)
御門は新たに呪符を5枚出すと地面にばらまく。そして、新たに繰り出した呪符2枚を自身に向けて使用した。
「
それは御門が本気で戦うときに使う、本来の戦い方、呪術により鍛え上げられた武器を装備し戦うための武器だった。
源家の研究所は、源家のテイル技術発展のために設けられた研究機関であり、研究員と本家にかかわりのある人間以外は侵入が不可能になっている。
入り口の前には航空機体が着陸できるほどの平坦な広場が存在し、その片隅に巨大な倉庫のような建物が存在する。中は巨大なエレベーターとなっており、そこから地下にアリの巣のように広がる研究所へと足を踏み入れられる。
研究機関は地下3階からとなっており、地下1階と2階部分は本家との直通の通路がある。本家の人間がもしもの時のために避難するための専用のヘリポートが、本家と研究所の中間地点に存在している。
「フラム。来てる。このままじゃ追いつかれるわ」
瑠美とフラムが、追跡してきている明人達の様子を見て悩む。ヘリで逃げるだけの時間が稼げない。せっかく明奈、聡、華恋という当代の卒業生を奪えたというのに、このままでは追いつかれ取り返される恐れがある。
「……私が足止めする。できれば殺す。フラムは大変だけど3人もって行って」
瑠美は即断する。フラムもそれに、乗り気ではないと顔の表情で訴えるものの、任務の成功を優先した。
「死ぬなよ」
「うん。まずったら逃げる」
フラムはそれだけ言って、研究所のドアを開く。瑠美はそれを見送り、迎撃のための策を考え始めた。
敵を追跡し、明人達がたどり着いたのは研究所の入り口。幸いにも、この場で待ち伏せしている敵は誰もいなかった。
明人は明奈の反応を見るが、現在地下に降りたばかりなのか、居場所を示す光の点はその場から動かない。
罠の可能性は考えても仕方がない。それが3人の見解だ。そもそも自分たちの目的は、攫われた明奈たちを取り戻すこと。そのために一刻も早く追いつくことを最重要視しなければならない。
「研究所のロックは俺の弾丸で穴をあける。源には」
「分かってるわ。明人君。そこは私が責任を持つ、急ぎましょう」
〈爆動〉を用いて、一気にエレベーターのある建物の入り口直前まで到着した。しかし、そこで周囲を警戒していた和幸が目を見開き叫ぶ。
「聡!」
入り口から少し離れたところで、聡がぐったりと倒れていた。和幸は焦りながら、聡が倒れている場所へと駆け出す。
その時、光が片手に武器を生成、なんと和幸に斬りかかったのだ。
仲間割れをしている暇がないというのに、光の行動にはさすがの明人も驚きを隠せず口をぽっかりと開けている。和幸の方を見た時に、光の狙いが和幸ではないことが分かった。
一瞬。〈透化〉を解く直前、透明な何かの輪郭が見えた。その輪郭は和幸のすぐ後ろで鋭利な何かを向けている。光は手に、黒い刃を持った刀を実体化させ、その輪郭に斬りかかる。
「和幸くん、危なかったわよ」
和幸は困惑していた。その場から飛び退く際に、確かに聡を抱き上げ、一緒にその場を離れたはずだったが、和幸の近くには何もない。そして突如として斬りかかった光は和幸がいる場所とは別の方向を睨んでいた。
「〈人〉と同格になったという割には、不意打ちでないと殺せないの? 雑兵」
その視線の先には襲撃者の1人が立っていた。奨が瑠美と呼称した、杖を持つ彼女は暗殺を阻止した光を睨んでいる。
「大方あの聡くんは、立体映像、ホログラムか何かでしょう?」
聡を心配する今の心情を利用された侮辱、和幸の怒りのボルテージがマックスになった。明人は和幸から明らかな殺意が沸きだしたのを感じる。
「八十葉家次期当主八十葉光。侮っていた。なんでバレた?」
「〈透化〉を使っている者は意外に忘れがちだけと。それは見た目を透明にするもの。レーダーには映るのよ」
加勢しようと構えた明人と和幸を制止した。
「貴方たちは先に行きなさい。優先することを見失わないで。今あなたたちがすることは敵を殺すことではないわ!」
右手に持った日本刀の刃先を相手に向け、さらに左には、刃が短めで軽い投剣が実体化する。もはや〈星光の涙〉を使う様子はなく、八十葉家のお家芸である遠距離攻撃が封じられたという前提で、瑠美と戦うつもりのようだ。
「安心して。侍の国に生きる者として、刀での戦いは心得ている。この武器もアピールだけじゃないわ」
光の言葉に甘え、和幸と明人は迷いなく、研究所入り口に穴を開け、そこから研究所に侵入した。
(まあ、八十葉光を分離できた。これならフラムも遅れをとらない)
瑠美はこれ以上足止めという欲を出さず、自分を殺しにかかってきている光の相手をするため、腕輪の力を解放した。
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