第54話 the fact show who traitor is「裏切者」

「……俺らを倒そうってか」


 天城正人がその記憶を見た時に、凄まじい殺気と覇気がにじみ出る。襲撃者の記憶に記された悪魔の経典を見てのこと。


 襲撃者の組織の究極の目標は徳位の12家をすべて滅ぼし〈人〉社会を終わらせる。そのための戦争を起こすため、冠位の教育機関で育てられている優秀な子供のいる教育機関を襲撃し子供を攫い自分たちの戦力にする。


 天城は自分達が喧嘩を売られているという事実に怒りを隠せなかった。


 光も眼光が鋭かった。しかし光が怒りを感じていたのはそれだけではない。光が見ていたのは、腕輪をつけた襲撃者がこれまで歩いてきた過去。


「こんなもの……! 差別主義の連中ならともかく……どうして『人間』がこんなひどいことができるの……!」


「ひ、光様。落ち着いてください……」


 華恋が心配するのも無理はなく、明人も奨も、そして御門や天城もそれほど激情を露わにした光を始めてみたほどだ。


 襲撃者の記憶の中には、残念ながら組織のトップとは面識がなかったがこれだけでも、値千金の情報だ。拠点の場所、その目的も分かった今、もはや冠位の〈人〉の家が動かないわけにはいかない。


 すぐにでも討滅の準備に入ろうとする御門、八十葉、天城、その他の〈人〉の家。明らかな脅威を前に気持ちが逸る〈人〉達にさらに、明人は宣言する。


「待ってくれ。実は俺には、もう犯人が誰か、心当たりがある」


 先ほどまで明人を試す態度だった天城も、そしてその他の〈人〉達も見事記憶を引き当てた明人の知恵をすっかり信用していた。そして今度はしっかりと耳を貸す。


 明人は言う。


「俺はエンジニアを始めてそんなに経ってない。俺が気づいたのにこれだけの研究者がいて気づかないのは。不自然だ」


「確かに……」


 確かに明人はエンジニア駆け出しにしては信じられないレベルの知識と技能を持っている。しかし、それでも長年研究社として勤めてきた御門家の研究者や、何より、テイル研究の先達者として名の知れたフォー博士に叶うはずはない。


「今回の襲撃者たちの解析をしていたのは、フォー博士をリーダーとしたそこの研究者たち、そう言っていたはずだ」


 御門はそれを肯定する。


「ああ、そうだ。報告はいつもフォー博士にしてもらっていた。確かに。気づいてもよさそうなものだ……が……!」


「言えなかったんだとしたら? もしもフォー博士が、何らかの事情でそのトリックを隠さなければいけなかったとしたらどうだ。御門、お前、一番近くの研究者の心臓に手を当てて、心音を測ってみろ」


 その瞬間目をしばらく閉じて何かを聞いていた奨、そして同じく天城は驚愕のあまり目を見開く。


 そして御門は絶句する。その間5秒。そして返ってきた答えは。


「……心臓が動いていない。死体だ。死者を動かす何かで強制的に動かされている。体温や生気はフェイクだ」


「自分の意志のない人形は、その使役者の意志に従うのみ。果たして、そこの研究者たちは誰の命令受諾していた?」


 この場にいる全員が、フォー博士を見る。しかし、先ほどまで居たはずのフォー博士はそこにいなかった。本来、この明人の解析を、襲撃者解析の顛末を知らなければならないその男はここにいなかった。


「あのじじい! どこ行きやがった!」


 天城の怒りの声が迎賓館中に響き渡る。それに応えるかのように、御門が手をあてていた研究者の手が突として動き、御門の腕に巻き付く。さらにこの部屋に数人いた研究者たちは、全員そろって、同じ声で、同じ言葉を口にした。


「潮時じゃな。今更隠すつもりはあらんよ」

「潮時じゃな。今更隠すつもりはあらんよ」

「潮時じゃな。今更隠すつもりはあらんよ」

「潮時じゃな。今更隠すつもりはあらんよ」

「潮時じゃな。今更隠すつもりはあらんよ」

「潮時じゃな。今更隠すつもりはあらんよ」


 その声はフォー博士の物だった。その言葉にもはや、ごまかしなどありはしないという強い意志が込められている。


 この場にいる誰もが凍り付いた。これまでの襲撃者、その真犯人に近しい男が、あまりに近くにいたことに。


 次の瞬間、この部屋に連れてきていた襲撃者がつけた腕輪が光り始める。


 迎賓館2階、実験室が爆発と煙で満たされる。腕輪をつけた襲撃者、そして何かしらの細工をされてしまった、御門家研究者の死体が自爆したのだ。


 いち早く、奨と明人は動き明奈を連れて外へ向かおうとしたが、

「明奈?」

 先ほどまで近くにいたはずの明奈は、明人の近くにいなかった。


 そして部屋の外から、

「やめて!」

 明奈の声がだんだんと遠くなっていく声が聞いた。奨と明人は慌てて明奈を追うため部屋の外へ。


「奨くん! ねえ、華恋を見なかった?」


 意図せずちょうど同じタイミングで外に出てきたのは、光と和幸だった。


「いや……悪いが探している余裕はない。俺らは明奈を奪われた」


 和幸は奨の言葉に耳を疑う。


「おい、聡も消えたんだよ。誰かが入り込みやがったん!」


 和幸はレーダーを起動し建物から出ようとする人影を発見する。1階の正面玄関から堂々と帰る気なのが見え透いた動きだった。


「飛び降りるしかない!」


 戦闘支援データの〈抗衝〉を使えば、本来は自殺行為になりそうな飛び降りも問題ない。行動に迷いはない。


 迎賓館前の広い道。かつて人間狩りの〈人〉と戦った道、そこに1人正門まで5メートルの位置で立っている男がいた。


 その男は、まるで奨と明人を待ち構えていたかのように建物側を向いていた。うち1人は見覚えがある剣を持っている。


「あいつ……!」


 その剣士の近くには、紫の縄で手を足を縛られ、口をふさがれている明奈、聡、華恋の姿。


 光は敵を殺すため〈星光の涙〉を起動。この空間に幾千もの星が輝き、流星が敵を穴だらけにするだろう。


 しかし展開された光の弾丸は発生するもすぐに暴発し、エネルギーがその場で爆散した。


 これは初めての経験だったようで、使い手はその現象に驚きを隠せない。その理由を和幸と奨はすぐに察した。剣士の隣にいるもう1人の襲撃者が白く長い杖を掲げている。杖は先端が淡く黄色に光っており何かをしているのは明らかだ。


「そう急くな」


 その男は口を開く。今までその弁舌と演技で、多くを騙し続けてきた男。


「御門と天城を含め他は中か。まあ良い。そこは今突入している腕輪の使用者たちに任せるとしよう」


 迎賓館から爆発が何度も起こり最終的に2階が壊滅した。新たな襲撃者、本来はそれも気にするべきことだが、その余裕は、光にも、奨、明人にも、和幸にも存在しない。


「フラム、瑠美。せっかくの機会だ。その顔を久しい友にしっかりと見せてあげなさい」


 襲撃者は、フォー博士の命令を聞き、その隠していたその顔を明らかにする。


「久しぶりだね。奨」

「私のこと覚えている?」

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