外伝3-9 腕輪の装着
会議が終わったものの、奨は今日は気分が乗らないという話をして自室にこもってしまったため、春が計画していた奨の帰還パーティーは明日になった。
(そりゃ、あんな話の後で……)
聡も華恋も、思っていることは同じだった。
しかし、それ故か、明日やる予定だった聡や華恋に腕輪をつける措置を急きょ今日行うことになった。
さすがにあまりに急だったもので、それを告げられて、先ほどの部屋に戻された2人は、不安でたまらない。
その不安に圧し潰されないように、2人は話をする口を止めることはできなかった。
「想像以上に……ヤバイ組織だったね」
「そうね。まさか、神の降臨だなんて、それも春さんが。源家ではあんな優しそうな顔をして私たちの面倒を見てたんだもんね……」
「怖いなぁ……こういう言い方はよくないけど、演技は、完璧だったんだね。閃様もずっとだましてたんだから。2年も、気づかれないように」
「それだけの執念を、持っていたということね」
今にして思えば、それはあまりにも恐ろしい執念だった。語っている言葉は子供の夢想そのものでも、それを現実にしようとずっと行動してきた。
妄信なのか、はたまた本人にとっては希望に満ちた夢なのか。
「でも、腕輪って。洗脳効果があるって言ってたような……」
「うーん、それもそうね。もしかすると……春さんのあの様子は、本心ではないのかも……?」
「そうすると、春さんが言ってたおじ様なる存在の願望が影響しているとか、かな?」
華恋の表情が暗くなる。
「もしそうだとしたら、私たち、もう今までの自分じゃいられなくなるってことだよね」
「そう、だね」
「そうなったら、もう私たち、敵になるんだ。いつかは、殺され」
聡は、だんだんと悪い方向に想像を膨らませていく華恋を見ていられなかった。
「殺されないよ」
「でも」
「逃げられない。ならもう僕らは、そうなってしまうのを受け入れるしかない。だけど、未来はまだ決まってないはずだ。師匠の受け売りだけど、言うね。生きることを最優先に。そして今自分ができる最善を選び取って、戦うべき時に戦え。だから、諦めちゃいけないよ。腕輪の支配になんか、僕らは負けない」
力強く訴えた聡を見て、意外そうな顔で聡に返答する。
「……意外。君、そんな顔をするんだ?」
「え?」
「だってさ。ずっと君、弱弱しい感じだったように思ってたから」
「ええぇ……」
「あ、元に戻った。情けない顔に」
しかし、沈み続けていた顔が元に戻っているのをみて、聡も一応安堵を示す息を漏らす。
その時、扉が開いた。
現れたのはもちろん春だ。そしてそれは、その時が来たということを知らせる合図でもある。
再び春について行く。
未だ見慣れない〈影)の本拠地の道を歩く。人が当たり前のように建物が並ぶ道を往来し、時には店のような場所で会食を楽しむ隊員の姿もある。本当にここは街なのではないかと錯覚しそうになる光景。
「……おかしいね……」
「ああ。なんだか」
なぜか自分達の同じ年ごろの人間だけが、死んだような目をしているのを度々見かけている。
「すぐにその理由は分かる。覚悟をしておいてね。おじさまはそこらへん、鬼畜だから。だから私が付き添いなんだもの」
覚悟、鬼畜、全く良い言葉ではなく、2人に悪寒が走る。
そして向かった先は、病院のような建物。
その実、そこは腕輪の研究所だった。
建物の入り口は自動ドア、通路は広めに作られていて、職員らしきもの達も基本的には白衣を着ている。案内板や受けつけもしっかり設置されていて、そこでは自動でAIが、用事を受け付けして最速で必要な部署へと連絡、もしくは何らかの手続きを行うことができるようになっている。
「いらっしゃいませ。春様」
春たちを出迎えた人型女性見目のアンドロイドが、機械の特徴を少し残していながら流暢に日本語を話すところを見て、源家ではそんなものを見たことがない2人が驚く。
「おや……私に驚いているようですね」
「この子たち、源家出身だから」
「なるほど、マシナリアをご存知ではないということですか」
アンドロイドは深々とお辞儀をする。
「マリナシア、バージョン3.46、個体名、ブリアドサーティンでございます。マシナリアは、いわば機械の体を持った知的生命体です。〈影)の皆様の生活や任務のサポートを行っております。想像しやすいところで言うと、御門家の式神を思い浮かべていただければ」
式神。それは伊東家が使用する召喚兵器とは違い、自分で意思を持ち、召喚を行った主と共に意志を持って行動する生命体だ。主に動物や幻獣、精霊の姿をしていることが多く、人と会話をすることもできる。
「それの機械版、ということですよ」
聡は説明を受けて改めてその体を見るが、一部分を覗けば、声も、質感も、本当に人のように見える。
「まだまだ勉強がひつようねー。まあ、それは私も同じだけど。ブリアドサーティン。案内お願い。どこの部屋か聞いていないのよ」
「施術は地下で行います。地下はここと違い非常に暗いので、お2人、どうかランプをつけた私からはなれないように」
そして歩き出すマシナリアの後ろをついて行く。先導をマシナリアが行うからか、春は2人の後ろについた。
右手にしばらく歩くと、突如現れた鋼鉄の扉を拓く。そこには大きな『縦』のトンネルが存在した。
「この建物は階段か、この穴を使って移動します。お2人は私が浮かしますので、春様は自力でついてきていただければ」
マシナリアの女型が何かを唱えると、
「うわ……」
聡と華恋は浮き始める。そしてマシナリア自信も浮き始めると、彼女と一緒に暗黒の奈落へとゆっくり下っていくことになった。
地下は先ほどまでのクリーンなイメージとは異なり本当に真っ暗だった。
先ほどの警告通り、聡と華恋は前も見えない暗い道を、はぐれないよう手をつなぎながら前を歩くランプを追いかける。
5分ほど歩き、とある部屋に入った。
周りが少し明るくなると、そこには、寝台と近くに仰々しい大きな機会が置かれている。寝台に横になって、頭の一部をその機会に埋める形になるのは見てとれる。
その意味ありげな機械が2つ。
春は後ろから2人に話しかける。
「腕輪を最初に着けた時は、結構体に負担がかかるし、こっちでも調整が必要なのよ。それはそのための機械なの。調整の間、たぶんあなたたち叫ぶことになる。だから最初の処置だけは地下の防音室でね。あとこの機械、一応幹部しか場所を知ってはいけない決まり。周りが真っ暗なのは、貴方たちにこの機会がどこにあるかを覚えてもらわないようにするためなの」
「叫ぶ……?」
「おじさまの悪趣味を目の当たりにすると思うわ。私がついてきたのは、あなたたちが壊れないようにするため。……すぐにわかると思うけど」
嫌な予感しかしない宣言。
マシナリアは2人に寝るよう進言する。
「それぞれの寝台に横になってください。あなた方への機械のセット、および腕輪の装着は春様が行います。お2人は措置の間決して動いてはいけません。危険ですからね」
聡を華恋は向かい合う。
ここに来たときにもう覚悟はしていた。そして先ほども恐怖を共有した。
もはや自分達に腕輪がつくのは決定事項。それは共通認識だ。
アイコンタクトで互いに、だからこその意志を伝える。
絶対に、洗脳なんかに負けるな、と。
聡が先ほど言った言葉を互いがここでもう一度反芻させ、覚悟を決める。
聡が先に寝台で横になる。
そして華恋も間を置くことはなく横になった。
2人には同じ感覚が来る。
目を覆う謎のバイザー型装置、頭もまた何かに包まれていた。そして体全身にコードがつけられる。
チクリと、何かが刺さった。
そしてその腕に、何かが装着させられる。
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