外伝3-8 神へ至る道

 気になることはまだある。


 たった今3つの方針が示されたところではあるが、3つ目の時に気になることを言っていた。


 そしてそれを陽火が言及する。


「京都を落とす……?」


 春は間違いではないということを返事する。


「そうよ。もちろん京都だけじゃない。私たちは2年後、京都襲撃と同時に12家の本家および重要な分家に私たちは同時に攻撃を仕掛ける。12家が躊躇っていた開戦を僕らの手で引き起こすつもりなのよ。おじさまは。だけどその中でも京都は幹部を向かわせる主戦場になる」


「この前と同じように、大規模戦闘を行うと。京都は、御門家の領地です。そして人間の楽園の守護者たる反逆軍もいる」


 京都は〈人〉が支配する世の中で唯一人間による自治と〈人〉との共存を行っている人間にとっての楽園。その地を守護する者こそ、倭を支配する12家の中でも最強と呼び声高い御門家と、人間による自衛軍である京都反逆軍だ。


 御門家が最強と呼ばれる理由は簡単だ。当主御門有也、そしてその幹部である24人が凄まじい強さを誇り、恐らくその25人だけで1つの領地を滅ぼせるだろうとすら言われているのだ。倭が現在、本格的な争覇の戦争が起こっていないのは、御門家に確実に勝つための算段を他の家がまだ立てられていないからだ。


 対し御門家が倭の統一に動かないのも、さすがに残り11家を一気に敵に回せば対応しきれないからだ。さらに当主の有也自体が、争覇にあまり興味を持たず、京都と自分の領地の守護に専心しているという理由もある。


 そして京都はそんな御門家のサポートを受けつつ、さらには反逆軍という人間の戦闘のプロを育て京都を守る自衛のための軍が存在するのだ。そこには人間でありながらも〈人〉を殺すための訓練を行っている数々が存在する。


 京都を侵略するということは、その2つの守護を壊滅させる必要があるということだ。


「でも、それは逆に言えば、そこは御門家の要所ということでもある。御門家は新人間派の筆頭の家でもある。彼らにとって京都とは理想の縮図。そこを攻撃すれば必ず幹部以上の連中が迎撃に出てくる。つまり、私たちが御門家の主力と戦うということよ」


「なるほど」


 フラムだけが納得して、他の皆が頭の上に疑問符を浮かべている。


「ふらむー、なにがわかったのー」


「御門家と戦うのはあえて、だろうね。倭を守る最強の守護者とも言われている御門家に僕らが勝利すれば、おのずと国内の中でさらに不穏は高まる。場合によれば、戦いや脅迫をなくして、僕らの味方を増やすことができる」


「なるほど、戦意を削ぐということやね」


 春がさらに京都を侵略する理由を加える。


「京都は要所よ。おじ様と私たち、そして精鋭部隊を引き連れて本気で占領するわ。今日は社も多く神秘に満ちている。霊力も満ちているから、術の場を作るのにはこれ以上ないほど適していると言ってもいい。儀式にはもってこいよ」


 儀式。


 悪の組織が目論む儀式など、ろくなものではないことは誰であっても分かる。


「儀式?」


 奨が口を開いた。他の皆が怪訝な顔をすることがないところを確認すると、

「お前らも知っているのか?」

 と強めの口調で、問いただした。


 多くのメンバーが春を見る。『言ってもいいか』と目で尋ねる。


 春は首を振り、その目的を語り始めた。


「〈人〉の世を滅ぼしつくし、秩序を私たちは崩壊させる。なら、その後は? 〈人〉はいなくなった世界で人間を束ねて再興させるための指導者が必要になる。だけど、それで私たちが目指す世界が実現できなかったら、そこまで頑張った意味がなくなるでしょう?」


「そうだな。じゃあなんだ。お前らが新しい世界の指導者になるとでもいうのか?」


「おじさまはそこまで考えていないんじゃないかしら? まあ、あわよくば自分が新しい指導者の1人になれれば十分だと思うけど。おじ様の目的は〈人〉への復讐だけだからね」


 そこで、唇の端を吊り上げて狂喜の顔となった春はその続きを語る。


「ここから先はおじ様も知らない陰謀。儀式とは神の降臨。人々の信仰を束ね、私たちの体を素体に、私たちの理想を叶える神を降臨させる」


 奨もさすがにこの場で『神』という言葉を聞くことになるとは思っていなかったようで、言葉を失った。


「テイルは、想像を現実にするもの。腕輪によって人間のための世界を作るという意識を持った〈影〉のみんなと、私たちの思想に同調した味方。彼らの教えを説き、その中で本来は存在しない偶像を生み出す。誰しもが善心と思いやりの心を持ち、誰も傷つかない世界を創り、守り続ける地母神とその守護者。彼らを人々の信仰と私たちの手で降臨させる」


「何を馬鹿な……」


「私は本気よ。奨。それが今の私の夢。素敵だと思わない?」


 奨は目を閉じ眉間にしわを寄せるしかなかった。


「喜んでくれないの……?」


 春は奨に不思議そうに尋ねる。自分が正しいものだと思い疑っていない。


 答えを返す奨は、怒りを伴っているような不機嫌な声で、しかし人質がいるからか真っ向から反対はしない。


「……好きにしろ。だが……俺は、そんなお前よりも、普通のお前のほうが好きだ」


「え?」


「……俺は、反対だ」


 春はまだ笑顔だった。しかし今度は年頃の少女が咲かせる華のように嬉しそうに笑った。


「奨……好きだなんて、うれしい」


「そう思うのなら、考えなおせ」


 聡は不意に、今の奨の姿を見て、源家本島で見た奨の印象とは少しちがうように思った。


 なにか、『らしくない』と。


 基本的には大人びた印象を持っていたが、この時の問答においては、とても感情が込められた子供の言葉のように感じられたのだ。

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