外伝2-45 激闘続く

 歩庄の弾は生成された瞬間に、その8割が破壊されていく。

 それはアジトで訓練した、歩庄討伐の為の訓練で不可視の圧力弾、〈裂天〉を無力化するための方法。元々、空圧弾が放たれるまでには、生成、標準、発射の3ステップが必要であり普通に銃で、狙って撃つよりも、1ステップ分の猶予がある。その間に光弾で、放たれる前の弾を消し去ってしまえばいい。

 当然光弾で狙いをつけるには、昇がしっかりと狙いが当たる想像をしなければいけないわけであり、来人との修業の時には、まだその技術は完成に至っていなかった。

 今、昇は、訓練では成し得なかった無力化に成功している。それは単に昇がこれまでの自分の限界を超えて戦っているからに他ならない。

 しかし、相手は射撃戦の本職。全てを相殺しきることはそれでも難しい。

 故に昇は、敵の弾と相殺させるための弾を放ちながら、自分に来る弾を殴り弾いている。これも訓練の通りだ。

 2発。昇に迫る。

 それを右と左のフックで防ぎ、その後来た一発は後ろに跳んで躱す。

 再び2発。

 今度は、炎を噴射し、高速移動の勢いとして、着弾直前、その弾をくぐり抜けて歩庄に迫る。

 未だ攻めきれない。

 歩庄はまだ遥か遠くだ。

 彼は昇と戦っている間は一歩も動いていない。それは、自分に光弾が向けられても決して動かない。まるで人間を相手に、自分が動いてしまったらその時点で負けだと思っているからだ。

 歩庄にとって人間とは戦いの相手としてはいけない。

 反逆軍守護者という実績を持つ相手ならまだしも、無名の野良人間相手では、戦いになって時点で自分の不完全を認めているようなものだ。

 昇はそれを鋭く感じ取って、侮辱だとは思っても何も言わなかった。

 自分と目の前の男の差はよく知っている。今回もこの対策がなければ相手にすらなれなかっただろうという自覚はある。

 しかし、天城来人が、あの倭で最強の12家の御曹司が言ったのだ。

『地力の見せあいはスポーツだ。俺達がやっているのは戦いだ。そこには明確な差がある。戦いは勝利こそが全て。力で劣るならそれを何かで補えばいい。人間であるお前は特に、力ではなく、知恵と工夫、そして日々の修練と対策、戦いに入る前、そして入った後の環境、道具、仲間、戦いの流れ、得る情報、与える情報、すべてが、格上を殺す武器になる。自分の力を信じる連中と戦うからこそ、お前はどんな手でも使って食い下がるんだ。このアジトにいる反逆軍の連中は、それのプロだから強い。おまえも真似しろ』

 相手が慢心で動こうとしないのは、昇にとって大きなメリットになる。昇はまさに、今のこの状況を自分が勝つための武器としてみなしている。

 流れは傾き始めている。後は昇が、それに乗ることができるかどうかだ。

 再び迫った空圧弾を、炎の灯った拳で殴る。

 しかし対処可能な数を少し超えていたため、無理をせず一度下がった。

 ここで歩庄の表情に変化が訪れた。

「なぜだ……?」

 殺しきれない。

 歩庄が疑問、そして怒りを募らせる原因はこれ一点に尽きる。

「なぜ、死なない……!」

 昇は勝負に出る。空圧弾は自動発射ではなく、歩庄の想像によって標準や威力が定められている。

 だからこそ、彼の感情に揺れ動きがあれば、必ず影響が出るものだ。

 昇はそう判断して、あえて口を開いた。

「分からないか?」

 やや呼吸を早くしながら、昇は歩庄を堂々と挑発する。

「これはお前が人間如きと侮った、人間の戦い方だ。その牙は必ずお前達のところまで届くと信じて、準備して、後は必死に戦う。その先にお前は、なんでもない人間である俺に、無様を見せるんだよ!」

 歩庄は目に見えて、怒り狂い始める。

「不愉快だ……!」

 そして空中に展開する空圧弾の数をさらに増やした。

「人間風情が俺に説教と不敬、その体、一片たりとも残さん!」

 昇は本気になった歩庄を前に、闘志の炎をさらに燃え上がらせた。





 大橋の近くでは、もう一人の幹部が劣勢を強いられていた。

「筆頭負けただと……」

 夢原に幹部筆頭である伝が敗北した。歩家の中でも最強の2人のうち1人がタイマンで負けたという衝撃のニュースに、驚く暇もなく自分にも悪い知らせが近づいている。

 先ほどまでは、優勢だったはずだが、それは一気に覆り始める。

 それは虫の対処をしていた井天の双子が、徐々に早坂を支援する光弾を向けていたからだ。

 井天2人自身に余裕ができたわけではない。

 幹部の使う虫に光弾が当たらずに苦労するのは同じだったが、考え方を変えたのだ。

 どのみちすべてを当てることはできない。虫はかなりの数の光弾を回避して雨や雲の2人に圧力をかけている。

 今までは回避された弾は全て死に弾となり何の意味もないものだったが、もともと光弾を幹部にも向いている方向にも撃つことで、仮に虫に光弾が当たらなくても、攻撃はまだ活きて活用できる。

 もちろん早坂を後ろから撃つ可能性があるが、井天にそれを指示したのはそもそも早坂だった。

 本人としてはすごく悔しいことだったが、早坂と敵の幹部での斬り合いは、相手の方が技量において上回っていることに違いはない。

 だからこそ援護を必要とした。

 幸い、早坂は気配の察知には長けていたため、後ろからの射撃に対応しながら戦うことはできた。

 そして井天からの射撃が加わることにより、攻撃の手数が圧倒的に増えた早坂が優勢になり始めている。

「くそ……!」

 このままでは押される。

 そう判断した幹部は、早坂を一度距離を取り、体勢の立て直しを図ることに。

 武器を構えながら早坂を見据え、そして次の攻め手を考える。

 しかし。

 その幹部に悲劇が襲った。

 上空から、黒い毒針の雨が降り注ぐ。

 井天雨のオリジナルデータ〈針雨ニードルレイン〉。毒が塗られた針を雨のように、標的の上空から降らせる攻撃。ただし針自体の量は多くとも、強度は低く、針は簡単にシールドで防ぐことができる。これは細かく範囲を指定して放てるとはいえ、さすがに早坂を避けながら雨を降らすことはできない。だからこそ、相手が早坂から離れたタイミングが重要だった。

 この攻撃。あまり聞こえは良くないが考えてほしい。シールドを傘に例えた時、その傘で雨のすべてを防ぐことはできたかを。

 雨が降れば、全身をシールドでくまなく覆わなければ必ず濡れる。それが針でも雨であれば同じことだ。

 幹部はそれを瞬時に察して、針を全身を覆うシールドで、防いだ。

 しかし、それこそが罠だということに幹部は気が付かなかった。

 〈針雨〉は、雨とはいうが、広範囲に一気に降らせることはできない。できても直系8メートル範囲くらいだ。この攻撃に相対した際に本来取るべき行動はその攻撃範囲から対比することだ。

 なぜなら、雨が降り続ける限りシールドを張り続けなければならず、針はシールドに突き刺さって、黒く視界を染めていく。

 そして以前にも話した通り、シールドは一般的に斬撃には弱い。

「〈撃月〉」

 確実に発動できるようにイメージを鮮明にするためあえて口から発音して、手に持った刃を振るった。

 短剣から放たれた遠距離斬撃は、シールドごと、中にいた幹部を一刀両断した。

 幹部が息絶えたことにより、井天2人が対処していた虫も消滅し、テイル粒子となって霧散する。

「感謝します」

 早坂は井天雨に礼を述べる。

「気にすることはないですよ。援護が私の役目です」

 疲れ気味の早坂に代わり、雲が大橋で戦っている仲間に、勝利の連絡を飛ばした。

「処理完了です。すぐに戻ります」 

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